ロボットコンテスト、通称ロボコン経験者は、個人としての高い技術的なスキルや知見はもちろん、ロボコンで発生するさまざまな課題を解決した経験を活かし、パナソニックグループで多くの人が活躍しています。今回は高等専門学校(以下、高専)でロボコンを経験した社員のお二人に、ロボコンの経験が仕事でどのように活かされているかを聞きました。
2023年12月
プロフィール
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岩間 祐太
パナソニック エナジー株式会社
豊橋技術科学大学院 工学部卒業
鹿児島工業高等専門学校5年本科卒業後、豊橋技術科学大学の3年時に編入・卒業後、同大学院に進学・卒業。2022年入社。 -
大木 晏
パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社
東京工業高等専門学校 機械工学科 本科卒業
2019年入社。
目次
課題を解決するだけでなく、観客を魅了し、感動させる面白さに魅せられロボコンの道へ
お二人のお仕事、職場について教えてください。
私は冷蔵庫工場で、主に基板に関する新機種量産準備や製造の改善に携わっています。技術開発側から提示された新しいハード・ソフト仕様で生産できるように、対応していただく企業の選定を行い、導入における見積もりを合理的に考え作成しています。また、その後の社内決裁にあたり、費用対効果の検討を入念に行い、決裁が下りると発注。搬入や実機調整を行うといった、設備更新の一連の取り組みは一年の中でも特に大きな仕事です。他にも技術開発側から提案いただいた採用予定部品の使用に問題が無いかの検証や温度など設備条件を変更しての不良箇所削減、コストカットのための材料変更提案も行っています。
岩間さんがおっしゃったように、私の部署も同じく休暇がとりやすく、オンとオフのメリハリを持って働けています。休日はロボコンを共に経験した学生時代の仲間たちと、リフレッシュするようにしていますね。
ロボコンを始めた理由や、きっかけについて教えてください。
小さな頃から家族みんなでテレビ番組をよく見ていたのですが、小学校3〜5年生の頃に放送していた高専ロボコンを見て「面白い!」と感じたのがきっかけです。父が元エンジニアで「高専に入学すればロボコンに携われる」と聞き、「高専入学」を念頭に、中学時代から勉強に励んで高専に入学しました。高専に入ってからはロボコン部に入り、1〜4年生まで現役として、5年生はオブザーバー&後輩のアドバイザーとして毎日のように活動していましたね。
私の場合は実家から徒歩20分の距離に東京高専があったので、高専を身近に感じていたのですよね。高専ロボコンをテレビで見たのは、小学校低学年のときです。小さい頃から厚紙を使って工作するのが好きだったので、スマートかつ観客を驚かせるような方法を用いて、課題を解決していく様を見て、「高専ロボコンってかっこいいな」と感銘を受けました。中学時代は勉学に励み、無事高専に入学しました。
入学後は岩間さんと同じようにロボコン部に入部し、1〜3年生まで現役で、4年生以降は現役生の補助的なポジションで連日活動していました。岩間さんがロボコン部時代に印象に残っているのはどんなことですか?
高専1年時に参加した「Shall We Jump」という縄跳びの競技が思い出に残っていますね。多くのチームはいかに高く、安定してジャンプするロボットをつくり上げるかに注力していましたが、私のチームの先輩たちが設計したのは、ジャンプするのではなく、宙吊りにしたロボットの脚を引っ込めることで縄跳びしているように見せるというロボットでした。ロボットが縄を単純に飛ぶ場合には、脚を"突き出す"イメージです。その際、力強く地面を蹴り、ジャンプ後にボディで着地できればいいのですが、先輩たちが設計した脚を"引っ込める"パターンは、ボディを空中で可能な限り維持し、飛ぶ場合よりも素早く足を引っ込める必要があったんです。また、縄が通過後すぐ、脚を突き出し、さらに着地もその脚で行わなければなりません。とても技術的難易度の高いチャレンジでした。
このチャレンジは単純に奇抜さを狙ったものではなく、この設計をすることで、スマートかつコンパクトなロボットができることも見越していたのです。私はロボットの技術に驚くとともに、それを近い年齢の方が実現しているところに感動し、自分もそういうモノをつくりたいと強く感じました。
先輩方の発想や考え方に驚かされることはたくさんありますよね。私が印象に残っているのは、ホースを輪にしてフィールドにある巨大なポールに向かって、輪投げをするという競技に参加した高専2年時のロボコンが思い出に残っています。我々のチームは課題をクリアできるスペックのロボットをつくることに注力したのですが、ある他校のチームはスペックよりもエンタメ性を重視し、カウボーイが投げ縄をするイメージでロボットを製作していました。そのチームは、競技の結果はそれほど上位ではありませんでしたが、観客・視聴者投票で大きな評価を得ていました。
先ほど話した小学生のときに見たロボコンの競技課題の一部が「ロボットが縄跳びを3回跳ぶ」だったのですが、当時の東京高専のチームは「三重跳び」で表現していて、それも面白いと思ったんですよ。他校の事例からも「自分がロボコンを通じてやりたかったのは、ただ競技をクリアするのではなく、自分自身もチームメンバーも楽しくロボットをつくり、観客も楽しませることだった」と気付かされた経験です。
ロボコンで身に付けた課題を突き止めるスピード感、実践の速さが仕事で高い評価を得る
ロボコンの経験が、仕事でどのように活かされていると感じますか。
ゼロから図面を書いてロボットを製作した経験があるので、技術的な知見や感覚が磨かれました。ロボコンでは実務で使うような道具や装置、ソフトウェアの使い方といった基礎知識を身に付けられましたし、設計や加工、組立などの経験をしてきたので、仕事に慣れるのは早かったと思いますね。目の前の事象に対して、どのようにアプローチすべきかを考え、スピーディに対応できるようになったのは、ロボコンの経験があったからだと思います。 設計や図面の作成について周りの社員の方々から評価をいただけていると感じます。
たしかに、道具や装置を知っているかどうかで、仕事をスムーズに進められるかは変わりますよね。私はロボコンで培った実践の速さを、周りの社員の方々に評価されていると感じます。私の部署では、製品だけでなく製品をつくる工程で使う機器、道具の製作も担っているのですが、その道具のアイデアを出してから試作品をつくるまでの動きが速いと評判です。
もうひとつロボコンの恩恵を感じるのは、課題解決のためにPDCAを早く回す経験ですね。何か不具合があった際に、経験と感覚で原因を突き止めることができ、スピーディに復旧作業ができるようになりました。例えばロボコンでも「潤滑剤が足りなくて動かない」「ネジの締めすぎで動かない」というトラブルが結構あったので、今の仕事でも「ここが擦れて動きが悪い」などの考えられる原因をいくつかピックアップし、切り分けて整理し、原因を突き止めることができています。
ロボコンとパナソニックグループでの仕事における達成感の違い、やりがいの違いがあれば教えてください。
まずロボコンと仕事の違いとしては、社会に与えるインパクトがあると思います。ロボコンでは成果物を使うのは基本的に自分達だけですが、仕事の成果物は幅広い人々に影響がありますから。
私が扱っている電池は基本的にはBtoB向けで、直接認知してもらえる場面は少ないですが、組み込まれた製品の商品価値に与える影響が大きい部品でもあります。そのため、お客様にあたる企業から直接感謝の声を頂戴するだけでなく、最終製品の評価を通じて商品を利用する方々にも役立てるという実感を持ちやすいので、大変やりがいを感じますね。
岩間さんがおっしゃる通り、評価する方が「観客」から「製品を使用するお客様」に変わる点が違いますよね。ロボコンの場合は「あれすごかったよね」という一過性の感想が観客から寄せられる一方、家電なども扱うパナソニックグループの仕事では、現在進行形かつ実感のこもった内容の意見が家族や友人など身近な人だけでなく、世界中から寄せられます。
実際に、パナソニックグループの販売店で働く入社後研修で、お客様の声を直接聞く機会がありました。例えば「昔は冷蔵庫のドアに買い物のメモを磁石で貼れたのに、今のガラスドアだとできない」という声があったんです。最近、またドアに磁石を貼れる金属製ドアの冷蔵庫を発売したところ、「こういう使い勝手の良いものを求めていたんだよ」と冷蔵庫を買い替えた人からの声が寄せられました。一個人としてもお客様の声をフィードバックして、製品づくりに活かせていると手応えを感じる経験でしたね。
大木さんは入社後研修で素敵な実体験を得たんですね。ロボコンと仕事のもうひとつ違いとしては、高専ロボコンは資金が少ないこともあったり、製作期間も短いこともあるので、面白いアイデアが浮かんでも諦めることが多くありました。しかし、その制約の中で、どう面白いことをみんなで実現させるかを考え、実行することにある種の達成感があります。
一方で、仕事では周囲の人と協力して、さまざまな調整をして予算を確保する必要がありますが、要件を満たし、必要な性能を盛り込むために、最適なソフトウェアや装置を使って、思い描いていたモノづくりができます。例えば、ある形の電池をつくるのに、高額な専用機器を開発する必要があるのですが、上司らの許可をもらえれば専用の機械を一から開発することも許されます。仕事ではロボコンでは得難い、純粋な技術的達成感が得られていますね。
高専で身に付けた、理論だけにとどまらない「実体験」「ひらめき」「実践力」を信じて
最後に、読者の学生にメッセージをお願いします。
ロボコンでは予算や制作期間などさまざまな制限がある中で、学生の皆さんは試行錯誤しながら取り組んでいると思います。そうした中でアイデアやソリューションを生み出す経験はとても貴重なものです。
また、大木さんの話にもありましたが、パナソニックグループは技術分野も多岐に渡りますが、同時に社会的に関われる分野も広範なため、いろいろなことにチャレンジできます。そのため「まだ自分のやりたいことがわからないけれど、世の中に貢献したい」と考える方にはとても良い会社です。幅広い視点や知見は、どこの企業に行っても必要なスキルだと思いますので、残りの学生生活では見識を広めつつ、さまざまなことを楽しみ、学生時代を謳歌してください。
私は「モノをつくるのが楽しい、面白い」といった気持ちを重要視するのが、最もモチベーションアップに繋がり、結果的に自分の能力として身に付きやすく、能力を活かしやすいと考えています。そして高専出身者の強みは、いろいろ散らばった事象から、「実体験」を活かしてパズルを組み合わせるようにつなげていき、うまくいく方法を導き出す「ひらめき」と「実践力の速さ」です。
学びとは関係なく趣味に分類されるようなものでも、思わぬ場で役立ったり評価されたりするので、学生のうちに少しでも興味が湧いたモノやコトには手を伸ばしてみてください。
*所属・内容等は取材当時(2023年12月)のものです。
私の仕事をひと言であらわすとリチウムイオン電池のセル機構(電池単体のメカ的な部分)に関する研究開発全般です。電池構造に関するアイデアを実際に形にする仕事で、工程としては最上流に位置しますが、とてもやりがいを感じて働いています。
また私の職場は、時期によって残業の差はあれど、定時に帰りたい場合も気兼ねなく帰れる雰囲気があります。帰宅後は仕事や自分のキャリア形成にも繋がる機械・プラント製図技能士や技術士などの国家資格の勉強をしています。上司や同僚も同様の資格を持っていることが多いので、私も頑張って取得しようと思っています。