自らの理想の解像度を上げ
撮影がたのしくなるレンズを届けたい。
設計開発 工藤 有華
一眼レフカメラに魅せられたのは、大学生の頃。花を撮ることが趣味だった。レンズを通すと背景をぼかすことができたり、イメージ通りに世界を切り取ったりすることができる。工学を専攻していた工藤有華は、根っからの機械好きで、在学中はロボットサークルに所属していた。「チームでのロボットづくりを通して、自分ひとりでできることには限界があることを学びました。周りと力を合わせることで、モノづくりの成果はいっそう大きくなります。抱え込み過ぎずに誰かに相談しながら前進しようとする考えは、現在の働き方につながっています」。
工学部での学び、趣味のカメラ。学生の期間に積み上げた経験から、工藤はカメラメーカーを志望する。多くのカメラメーカーが、東京など関西圏外に拠点を置いていたが、それでも慣れ親しんだ大阪で働き、活躍したいという想いを強く持っていた。
ここで工藤は、所属する事業会社と職種を自ら希望することができるパナソニックグループのマッチング制度を利用する。カメラ開発に携わることと大阪で働くこと、2つの条件を満たす大阪の門真市を希望し、晴れてカメラ部門に配属されることとなった。「私に限らず、地元愛が強くて、慣れ親しんだ街を離れたくないという人は多いと思います。地元のそばで働きたいという想いに応えられるのも、日本のあらゆる地域に拠点があるパナソニックグループならではだと思います」。工学という大きな括りでは同じであっても、入社して担当することになったのは、交換レンズを開発する"光学"分野。知らない言葉が飛び交うなかで、一から勉強することも多かったが、周りの先輩に相談しやすい環境であったため、戸惑いは少なかった。
交換レンズ開発のなかで担当するのは、光学設計から量産仕様確立までを担う仕事。交換レンズの内部には何枚ものレンズ玉が並んでいて、これらのレンズ群の構成や光量を調整するための絞りの配置などを決めていく。レンズは、μm (1mmの1000分の1)単位の誤差によって性能が大きく変化する繊細な世界。製品のサイズ・価格帯・コンセプトなどに合わせたふさわしいレンズの開発を叶えながらも、量産が可能な仕様へと落とし込むことが求められる。企画の段階から深く関わるため、商品に対しての思い入れも自ずと強くなっていく。
工藤は、パナソニックを代表するデジタルカメラのブランド「LUMIX」の交換レンズの光学要素リーダーという大役を、入社3年目に任されることとなった。なんとしてもいいレンズをつくる。2019年、その想いを持って担当したS-R2060という製品は、日本の主要なカメラメーカーがしのぎを削るカメラグランプリの受賞式で、LUMIX史上初となる「レンズ賞」を受賞。最も優れた交換レンズのひとつとして認められた。
今もカメラを趣味とする工藤は、レンズ開発者である自らがつくるレンズを、理想に近いレンズだと評価する。「自ら開発したレンズは、誰にも負けないくらい徹底的に使い込みます。自分が魅力を感じない商品は、お客さまにも選んでもらえないと思うので。でも、そんな趣味と仕事がなだらかにつながるモノづくりは、なかなか経験できないことですよね。ユーザーとしての目線を大切にしながら、これからも使っていただく方に喜ばれる製品を開発していきたいです」。
パナソニック エンターテインメント&コミュニケーションが対象としている商材は一眼レフカメラだけではない。「こんなものがくらしにあったらいいのでは」というアイディアを社員一人ひとりが持ち寄り、仲間を増やし、ボトムアップで企画が立ち上がることも多いという。また、商品企画部門だけではなく、技術者側から新しい企画を提案することもある。発想が広がるほど、チャレンジが生まれ、働き方の幅が自分たち次第で広がり続けている。工藤が見つめる未来の解像度は、どこまでも鮮明だ。