パナソニックの人 横山 智康

仕事場と横山 智康さん

マテリアルズ・
インフォマティクスを駆使し、
エネルギー材料を革新したい。

研究開発 横山 智康

「父の存在が、大きかったです。父は岐阜県の東濃地方で1300年の歴史をもつ陶磁器『美濃焼』など、セラミックスの研究者。地場産業として美濃焼の付加価値を高める研究をしていました」。エネルギー材料の研究開発に携わる横山智康は、自身の研究者としてのルーツをそう語った。「小学生の頃は、夏休みになると父から自由研究のテーマを与えられて夢中で取り組んでいました」。たとえば松葉を使った排気ガス量の測定。松葉の気孔は特徴的で、大気の汚れが観察しやすい。真っ黒に日焼けしながら、あちこちから松葉を採集して顕微鏡で観察し、交通量との関係を分析。環境問題にも目覚めたという。他にも色が違う親のメダカからどんな色の子が生まれてくるのか。電源を切った家電がコンセントを差したままだとどれだけエネルギーを消費するか。「なぜ?」と思ったことをとことん突き詰めていく、そんな習慣が身に付いていった。

笑顔で会話する横山 智康さん

すでに中学生の頃には、漠然とだが、材料を研究してエネルギー問題を解決したいと思っていたと横山は振り返る。ちょっと大人びていたのかもしれない。「問題の根源を解決すれば、世界中にインパクトを与えられる。自分に寿命がきても、その材料や技術が使われ続けたらスゴイ!」。そこに研究者をめざす動機があったともいう。どんないい材料を見つけられるか、それがイノベーションを起こす源泉と考え、大学は迷わず材料工学系に進んだ。

大学での研究テーマは、太陽電池材料の特性向上だった。隣の研究室のシミュレーション結果に基づいて新材料を合成・評価したのだが、実験結果では特性が下がってしまう...。「なぜ、シミュレーションと実験とがあわないのか?」。シミュレーションに興味をもった横山は、思い切って隣の研究室の先生に指導を仰いだ。そして材料を本質から理解するには、材料中の電子のふるまいを決める量子力学から学び直す必要があると痛感。修士課程では指導を仰いだ先生が在籍する研究室へ移り、シミュレーション技術を身に付けていった。研究者への道を着実に進み始めた横山。希望の就職先は、おのずと絞られていった。クリーンエネルギー技術について精力的に取り組んでいる。シミュレーションを材料開発に採り入れることを重視している。イキイキと自身の研究の話をしてくれる先輩社員がいる。夢を叶えられそうな環境が、パナソニックにはそろっていた。

パソコンで作業する横山 智康さん

入社後、大学での学びを実践に移すかのように横山はクリーンエネルギーデバイスの材料開発に取り組み始めた。だが新しい材料の発見は砂漠での宝探しにたとえられるほど。経験と勘に頼らざるをえず、多くの年月が必要とされ実用化のネックになっていた。それが近年、AIとシミュレーションを技術融合させた材料探索手法が開発され、プロセスを革新させた。「MI=マテリアルズ・インフォマティクス」だ。従来見えなかった材料の本質を把握してアプローチでき、10年以上かかっていた開発期間を大幅短縮する手法だ。MI技術の潮流をつかみ、横山は早くも3年目にブレークスルーを起こす。

それは二次電池のプロジェクトから異動した「次世代太陽電池プロジェクト」でのことだ。この太陽電池は有機/無機のハイブリッド材料で、柔らかくて曲げられる特性をもっている注目のデバイス。ところが、この材料は計算による特性予測が困難で、MI技術をそのまま適用することができなかった。そこで、横山はかつて取り組んでいた二次電池のシミュレーションからヒントを得て、高速に計算できる独自のアイディアを考案。1年間かかっていた予測を、なんと数時間でやってのける手法を生み出した。「異なるテクノロジーの融合の成果です」。世界も驚かせたこの手法は、著名な2つの学術講演会において奨励賞を受賞した。

笑顔で語る横山 智康さん

「新材料でくらしを豊かにできる。世の中にないその材料を自分の手で生み出せる」。仕事の魅力を横山はそう語る。確かに⻘⾊発光ダイオードやリチウムイオン電池は、⾰新的な材料の発⾒で普及した。まさに材料は社会の基盤であり、イノベーションの源泉。横山が取り組む太陽電池や二次電池といったクリーンエネルギー技術の普及にも、新材料の創出が不可欠だ。「MI技術を駆使し、さらに異分野のテクノロジーを融合して材料を電子レベルからひも解けば、かつてない性能をもつエネルギー材料を発見することができる。そう信じています」。夢は、新材料でエネルギー問題を根源から解決すること。「もしかしたら世界を変えられる。そう思うとワクワクします」。父から譲り受けた探求心で、横山は自ら課したテーマをこれからも研究し続ける。

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