ガラスと光の真理に迫り、
美しい映像を届けたい。
設計開発 永縄 智大
「どれだけ真理に迫るための失敗を生み出せるか」。永縄智大は、やさしい表情で、そして力強く語る。所属する光学デバイスビジネスユニットで、永縄はガラス素材を使ったレンズ成形と向き合っている。デスクで解析したり図面を描いたりするよりも、ものをつくり、手を動かして実験検証していく時間の方が圧倒的に長い。緻密な計算を積み重ねる業務を連想させるが、良い仕事をするために必要なのはひらめきであると話す。「職人的な仕事ですが、頼りにしているのは実はひらめきです。でもそれは、根拠のない直感や思いつきではありません。常に想像力を働かせ、目に見えない現象の可視化に挑戦しつつ、最適な条件を探るなかで出会うノウハウに裏付けられたものです。限りある設備、時間、人員のなかで最善の答えを導き出すには、そのような新しい視点を捉えるひらめきが必要なんです」。
光学デバイスビジネスユニットは、光を通すものを幅広く取り扱う。その領域から生まれる身近な製品と言えばカメラだ。研究分野としてはまだまだ未知に溢れているという。「レンズの技術のなかには、現在の工法が発明されてから30年以上、不良の原因が解明されていないものもあります。どれほど高精度なガラスレンズを設計しても、光の屈折など、予想とは違う結果が現れることは少なくありません。難しくもあり、だからこそやりがいを感じられる領域です」。
振り返れば、幼少期の頃から工作などのモノづくりが好きだった。それだけでなく、どうにかして人と違うものをつくりたいという想いを強く持つ少年だった。中学生でロボコン大会に参加した時にも、先生が用意したサンプルに沿ってつくるには飽き足らず、最終的には勝たなければ意味がないと、独自の設計を模索していた。そう、負けず嫌いというのが永縄のもうひとつの一面なのだ。スポーツに打ち込んでいた姿にも、それが垣間見える。中学でソフトテニスを始め、高校は硬式テニスに転身。大学に入学してからもサークルでテニスをつづけ、研究の傍ら、多い時には週に6回もの練習に励むなど、やると決めたからには徹底的に追求するところがある。頭を使う時間と体を動かす時間。その良いバランスが、昔も今もパフォーマンスを上げるためには不可欠だという。
大学では、赤外線の一部であるテラヘルツ波の研究にのめり込み、それが現在の仕事にもつながっている。就職先の決め手となったのは、モノづくりがしたいという想い。そうしてメーカーを志し、パナソニックを選んだ。「就職先を選ぶ時は、どこへ進むべきか迷いました。そのなかでパナソニックは、納得して来てほしいと、悩む時間をちゃんとくれたんです。丁寧に話をしてくれる姿勢にパナソニックで働く方の人柄の良さを感じました。入社してから出会った現在の部署のみなさんも、分からないことを丁寧に教えてくれたり、魅力ある方ばかりです」。
入社3年目の今、仕事の領域は広がり続けている。カメラに代表されるレンズ開発は、内視鏡用の超小型レンズからプロジェクタ用の大型レンズ、最近ではHMD(ヘッドマウントディスプレイ)用レンズにまで拡大。既存の製品であっても、さらなる小型化、高画質化が求められていく。今までつくることができなかったものを実現する。シンプルな挑戦は尽きない。
パナソニックという大きな企業であっても、光学デバイスビジネスユニットは発展途上だ。永縄がそう話すのは、日々向き合う領域に、まだまだ立ち向かうべきことが溢れているからだろう。そして、仕事には、どこかクリエイティブな印象が漂う。目の前の課題とは全く関係ないものからインスピレーションを得ることも多いという。「どれだけ真理に迫るための失敗を生み出せるか。持っている知識のなかだけで考えたことは、やはり想定内の結果につながることが多いものです。そうではないところからじゃないと、想像を超えるような結果はなかなか生まれません。製品技術を突き詰めていくために大切なのは、一つひとつの技術開発に自分の意志を持つことだと思っています。開発の世界では、1勝9敗でも凄いぐらい。たとえ失敗しても試してみたいと思えるような挑戦の先に、思いがけない発見が待っていると信じています」。ただ、ガラスレンズを製品化するだけではない。職人的な技術、経験、シミュレーション、解析、その全てをつなぎ合わせて、レンズ成形自体に新しい世界を切り拓いていく。永縄が生み出すガラスレンズは、これからどんな未来を、見せてくれるのだろう。