AI技術で、新しいパナソニックを
つくったと
胸を張れる仕事がしたい。
研究開発 阪田 隆司
プログラミングに出会ったのは、大学4年生の時だった。友人に勧められてはじめて書いたプログラムが、パソコン上で思い描いた通りに動くのを見て、心を奪われた。大学院で航空宇宙工学の研究をしながら、自宅では独学でプログラミングを学ぶ日々が始まった。そして、大学院を卒業する頃、情報系の仕事に携わる事ができる企業に進む意思が固まっていた。さまざまな企業を回った。しかし、専門外の分野での就職活動は、簡単なものではなかった。「航空宇宙工学からなぜ、異分野のITに?」という質問を何度も受けた。それでも、彼は諦めなかった。そして、パナソニックと出会う。
「パナソニックにも情報システムを扱う部署があると知って応募したのですが、創業者、松下幸之助の精神にも惹かれるものを感じました。社会の公器として、自分の働きを通して社会に貢献できたら素晴らしいなと思ったんです。内定をもらった時は、正直、嬉しかったです。ありがたかったですね」。
配属されたのは、社内向けのシステムをつくっている部門だった。そのなかでも新しくできたデータ分析をする部署に所属。データを活用して、社内のさまざまな課題を解決することがミッションだった。データ分析は、はじめての経験だった。仕事を通して一から学んでいった。そして膨大なデータのなかから当たりを付けて答えを発掘する、宝探しのようなこの仕事がおもしろくなってきた頃、「Kaggle(カグル)」と出会う。
「Kaggle」とは、機械学習モデルを構築するコンペティションのプラットフォーム。スポンサーから出される課題に対し、解決する分析モデルを提案し、その精度を競い合う。彼はすぐ、この「Kaggle」にのめり込んだ。
大学時代に独学でプログラミングを学んだように、仕事から帰ってくると黙々と「Kaggle」と向き合い、何度もコンペに挑戦した。それを繰り返すうちに、いつしかデータ分析や機械学習などのスキルが身に付いた。そして、世界で当時約150名が所持し、日本で9人目となる「Kaggle」のグランドマスターの称号を手に入れた。この快挙は、すぐに社内に知れ渡った。
現在は、テクノロジー本部 デジタル・AI技術センター データアナリシス部に所属。全社のAI技術の事業応用を推進するDAICC PJ(ダイクプロジェクト)のメンバーとして活動している。主な活動は、社内の技術支援だ。社内のさまざまな部署が抱えている困りごとを、AI技術を使って担当者と一緒に解決を図っている。たとえば、生産現場での目に見えない製造不良の原因を突き止めたり、リチウムイオン電池の内部の状態を分解せずに推定することで、そのデータを新しい電池技術の開発に活かしたりなど、少しずつ実績を積み上げている。また、AI技術を社内に広げるための教育活動も、もうひとつの大切な仕事。AI・データ分析に関する社内研修の講座を開き、実践的なAI技術の養成に取り組んでいる。この仕事の魅力を彼はこう語る。「AI分野の技術進歩が目覚ましいなか、このような技術の最先端に触れられることが、この仕事の魅力のひとつです。また私は、自分の働きで誰かの役に立ちたい、という思いが強く、さまざまな困りごとを解決に導けることに大きなやりがいを感じています」。
プログラミングとの出会いがあり、パナソニックとの出会いがあり、そして「Kaggle」との出会いがあり、今、彼はここにいる。それは、自分の興味があることを、ひたすら実直にやり続けてきた道のりでもある。その道の先に、彼は何を見つめているのか。「パナソニックは非常に広い事業領域を持ち、その事業のあらゆるプロセスでAI技術を活用できる可能性が広がっています。AI技術を駆使してくらしを良くするために何ができるかを突き詰めて、新しい製品やサービスを創出していきたいと思います。そうした活動を通じて、自分が新しいパナソニックをつくった、と胸を張れるような仕事をしたいですね」。いつか、パナソニックのモノづくりに大きな花を咲かせることを夢見て、彼はAI技術の種をまき続けている。