パナソニックの人 篠崎 美帆

仕事場と篠崎 美帆さん

木のぬくもりや素晴らしさを
心から味わえる住まいづくりを支えたい。

設計開発 篠崎 美帆

遠いどこかの見知らぬ誰かの人生の一部となるもの。自らが手掛ける商品をそう表現するのは住宅用建具(住宅用の建材)の商品開発に取り組む篠崎美帆だ。「主に携わっているのは住宅用の扉の新商品開発やリニューアルなどです。住まい選びの基準となりやすいキッチンやリビング、建物のデザインなどの陰に隠れがちですが、実は扉は出入口としての役割と同時にその家の雰囲気や表情を描き出す重要なパーツです。なにげない日常やお子さまの成長の一瞬一瞬が必ず扉を通っていきます。私たちの商品がお客さまのくらしや人生の一部になることを想像すると、安全性、耐久性、デザイン性などに決して妥協は許されないと身が引き締まる思いです」。

上を見上げる篠崎さん

学生時代は農学部で森林科学の学びを深めた篠崎はの活用に注目していた。「森林保全といった地球規模の環境問題よりも、という素材そのものを使って社会やくらしを良くする方法に関心を寄せました」。

木の腐食と安全性の関係を研究テーマとした篠崎は卒業後の進路として複数のメーカーを検討した。最終的にこの道に進んだのは、長く使われるもの・世の中の役に立つモノづくりができると思ったからだった。「木製の楽器、天然由来の素材を使った生活用品など、木や自然にまつわる製品もおもしろいと思いましたが、趣味の道具や消耗品ではなく、長く使ってもらえるものに携わりたいと感じました。やはりエコで自然を大事にしたい気持ちがどこかにあったのでしょうね。建具であれば、長い時間、愛着を持って使っていただけると思いましたし『木』だけではなく、異素材と組み合わせた建具開発にも夢が膨らみました」。

入社して丸5年。現在は企画から設計まで、トータルに担当する。湿度などの影響を受け、時として「反り」や「たわみ」を起こすこともある木材のクセをふまえた建具開発では、かつて学んだ『木』の特性に関する知識が活かされることもあるとか。そんな篠崎は入社前と入社後では仕事に対するイメージが全く変わったと言う。「入社前はプロジェクトチームの限られたメンバーで設計が決まっていくイメージを持っていましたが、実際は、まるっきり違いましたね(笑)。ひとつの建具が世に出るまでには、営業部門や生産現場との対話は日常茶飯事、実際に施工した場合の改善点の洗い出しには社外の工務店さんの協力を得るなど、逆にひとりで完結すること自体が少ない気がしています」。

説明をする篠崎さん

住宅市場のトレンドをとらえた製品をリリースするため、開発期間は約9カ月とスピードは比較的早い。「常時3種類程度のプロジェクトを同時進行で動かしています。入社1年目から既存製品のリニューアルを任されました。先輩の教えを受けながら必死で取り組みました。辞書みたいに分厚い製品カタログに私が手掛けた製品が掲載されているのを見た時の喜びは今でも忘れません」。

入社3年目には、天井から床まで届く1枚のガラスを使用したスマートフレーム引戸『AirView』の開発に着手。従来品以上にガラス面積が大きく、重量もある引戸を天井から吊るす独特の構造には乗り越えるべき課題が山積、何度も社内で協議を重ねるなど、篠崎自身も生みの苦しみを味わった思い出深い製品だ。「建具として要求される使用性・耐久性を保ちつつも、スマートでノイズレスなデザインを重量のあるガラスを使いながら実現することが『AirView』開発の最大の難所でした。相反するこれらの要求を具体的な形へと落とし込むには、これまで蓄積してきた社内のドア開発の知識を持ってしても足りず、これまでにやり取りの無かった、市場で実績のあるサプライヤさんの力を借り、試行錯誤を繰り返していきながらようやく完成へとたどり着くことができました。これまでガラス面積が大きな引戸自体が大手メーカーでの取扱いが少ないジャンルだったわけですが『AirView』のリリースは、私たちのモノづくりの実力やチャレンジ精神のようなものを改めて市場にアピールできたのではないかと思っています」。

ドアノブを触る篠崎さん

優れた建具としての主たる条件はデザイン、機能、耐久性、そして安全性である。篠崎はこれらの条件を限りなく満たすモノづくりにとことんこだわりたいと言う。「開発時間の制約はありますが、可能な限り100%の完成度をめざしています。まずは企画を練り上げ、図面とデザインを固めます。その後、試作品を使って、施工のしやすさやデザイン性、構造として不具合、耐久性など、さまざまな視点で評価をしていきます。そして、その結果を元に営業部門や協力会社さんなどの意見も聞きつつ改善を行い、少しづつ完成形へと寄せていきます。『AirView』については20パターンほど試作を繰り返しました」。

日々、知識と経験を積み上げ、建具開発のスぺシャリストとして歩み続ける篠崎だが時にモノづくりのシビアさに直面し、足を止めそうになることも。「考え抜いてつくった製品だったとしても、時には市場ではあまり評価されないこともあります。伸び悩む販売数という現実と向き合う時は正直怖いですね」。その一方、狙い通りの製品を送り出した時の喜びは格別だと付け加える。「定期的に製品の展示会に出るのですが、製品をご案内する説明員として応援に行った際、来場中の工務店さんから『このドアいいよね。前に手掛けた物件で入れさせてもらいました』とお声をいただくこともあります」。やはり実際のお客さまの声を聞くのがいちばん嬉しいと目尻を下げる。

「パナソニックのブランドイメージがあるゆえ、品質や性能には一定以上の期待が集まります。その期待を上回るものをつくっていきたいですね。将来的には、木素材を通して自然の豊かさのようなものを味わってもらえるような、そしてそれが暮らしの豊かさにつながるような、私なりの知恵と工夫をこらした建具をお届けするのが目標です」。

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