AIロボットの自動化で、
想像を超える便利を叶えたい。
研究開発 左近 実智隆
フルマラソンの自己ベスト記録は、2時間35分。左近実智隆は、長距離走で鍛えた、どんなことでも目標に向かって突き進む粘り強さを持っている。幼少期からアニメやSFが好きで、ロボットづくりを夢見ていた左近は、大学でAIとロボットの研究に興味をもった。進化が目覚ましいAIやロボット分野では、研究機関やメーカーなど、進路の選択肢は豊富にあるが、よりくらしの役に立つことを実感したいという想いからメーカーであるパナソニックグループを選んだ。
パナソニックグループに入社を決めた理由について、左近は「いろんなスキルやキャリアを持った社員がたくさんいるから」と答える。「研究者として、多様な意見を吸収できる環境に身を置きたかったんです。そう思うようになったきっかけは、大学院1年生の時に参加したパナソニックグループのインターンシップ。予期せぬバグや、答えの見つからない課題に直面した時に、他者の経験や視点は新たな突破口になるのだと実感しました。また、いろいろな経歴を持つメンバーと触れ合うなかで、個性的な人材が集まる場所にはユニークなアイディアが生まれるのだと学びました」。実際に、左近が所属する部署にいる約30人の研究者の経歴はさまざまだ。テレビ関係の技術に関わる仕事をしていた人もいれば、携帯電話の構造の開発をしていた人もいる。一人ひとりが優秀な研究者であるだけでなく、それぞれの得意分野や発想が組み合わさって、思わぬ化学反応が起こることに喜びを感じている。
現在、所属している部署では、物流倉庫に導入されるピックアンドプレースロボットの開発が中心に行われている。約6年前に設立された、まだまだ今後の発展が期待される部署で、ロボット制御プラットフォームを開発し、その技術で倉庫管理の自動化に貢献している。倉庫管理といっても、舞い込む課題や事情はさまざまだ。倉庫の大きさや形状も違えば、扱う商品のサイズやパッケージも違う。ダンボールのサイズに応じて自動で置き場所を選んで整えられるようにしてほしいという依頼もあれば、パッケージをすべて正面に自動で揃えて配置するシステムを希望されるケースもある。「特定のシステムを納入するだけなら簡単ですが、実際はそれほど単純ではありません。案件ごとに解決すべき課題が違うため、どのようなシステムや機器があれば、その工場の自動化を叶えることができるのかから考える必要があります。難しい部分もありますが、そこに答えを見つけることにやりがいを感じています」。
現在までに最も印象に残っているのは、3年目に携わった物流・倉庫業の自動化のプロジェクトだ。ロボットを用いたピックアンドプレースのシステムを実装させるなかで、来る日も来る日もバグと向き合い検証を重ねた。「システムが思い通りに動いた日のことは、いまでも鮮明に覚えています。どれだけ成功を重ねても、まだ一人前だとは思えませんが、自分が考えたアイディアやつくり上げたシステムに対して、先輩が驚いてくれた時は、自分ならではの成果を生み出せたと感じます」。
いまではそのように語る左近も、新入社員の頃は、受け身で仕事をしていたと振り返る。「最初は指示を待つことが多かったように思います。でも先輩から、積極的に取り組み、いろいろな人と関わりながら開発した方がたのしめるとアドバイスをもらって、自分から動くことを意識するようになりました。どういう研究がしたいのかをちゃんと言葉で伝えるようにして、答えの出ない難題に直面したら、周りの人に意見を仰ぐようにしていきました。挑戦は向こうからやってくるわけではありません。自ら動くことによって、成長につながる機会は広がっていきます」。その前向きな姿勢や言葉の背景には、それぞれが自分の強みを発揮し、互いにインスピレーションを与え合いながら成長していける環境がある。現在では、左近自身も、同じ部署にいる後輩に、好きなことに真剣に取り組む姿勢が重要だと伝える。
研究と開発に邁進する左近の胸の内には、技術を家庭に応用したいという夢がある。「いまも家事を助けてくれる家電はいろいろありますが、多くのものが掃除なら掃除、食洗機なら食器を洗うなど、特定の機能に特化しています。私がめざしているのは、その時々の状況に合わせて手助けをしてくれる複数の機能を備えたロボットです。人間の作業がどんどんロボットに置き換わっていく未来ではなく、人間に寄り添って一緒にたのしんでいける"ネコ型ロボット"のような親しみやすいロボットをいつか生み出したいと思っています」。その眼差しが見つめるのは、はるか遠くではなく、手が届きそうなちょっと先の未来だ。