業務用の大型空調を通して
データを価値あるものに変えていきたい。
研究開発 広本 将基
生まれながらにして、広本将基とパナソニックにはつながりがあった。両親がパナソニックに勤めていたことから、パナソニックの製品はいつも身近な存在だったのだ。パナソニックのものは壊れにくいね。そんな会話も幼い頃から耳にしていた。モノづくりがしたいという想いを心に抱いていた広本にとって、今いる場所は必然であったのかもしれない。現在所属するイノベーションセンターでは、業務用空調のIoTソリューション開発に携わっている。緻密なデータ分析を積み重ねて、他社との差別化につながるIoTの先行技術を開発する。これまでにない技術を追い求めるがゆえに、そこから生まれる成果は、必ずしも全て製品化に結びつく訳ではない。しかし製品に実装され、人のくらしに革新をもたらす種は、確かにここから芽生えようとしているのだ。
パナソニックに入社したのは、両親の影響だけではない。学生時代に学んだ、データを活用した機械学習の機能開発に携わることが、歩むべき道標になっていった。機械学習とは、コンピューターアルゴリズムの研究領域で、自動で改善を重ねながらアップデートするというもの。振り返れば、小学生の頃から算数が好きで、クラスメートと計算の早さを競い合うような少年だった。20年後、その姿は、データ分析と向き合う姿となっている。そしてもうひとつ、就職活動の時期に、ちょうどパナソニックでコース別採用のAI・ICTコースが新設されたことも入社の後押しとなった。先進的な技術を積極的に取り入れようとする企業姿勢は、賢い家電づくりに関われるのではという気持ちを高めた。
空調を開発する部署への配属を提案された時、直感的におもしろそうだと感じたという。「空調は、さらなる進化が期待されている領域のひとつです。そこには、まだまだ活かしきれていないデータがあると思いました。データが集まるということは、分析をして開発・改善する余地があるということですから」。取り扱う空調は、一般家庭用ではなく、ビルや施設などに納入される業務用のものが大半を占める。物件オーナー、設備管理者、テナント利用者など、機器の導入だけでなく保守運用していく上でも利害関係者の多い商材であり、その分、求められる要求も多岐にわたる。ここで広本は、学生時代の経験を活かし、お客さまそれぞれが求める空気を届けるための空調換気連携のアルゴリズムの開発を進めている。
入社して驚いたのは、想像していたよりも海外との共同研究を積極的に行っていたことだ。環境整備の面では、欧州の方が制度やルールづくりが進んでいる。ヨーロッパ、中国、シンガポールなどの技術者と最新の研究について意見を交わし、こちらの技術開発に対し、それであればこんなアプローチはどうだろうとアドバイスをもらうこともある。「社内にも、データ分析のスキルや仕事の進め方などで参考にしたい方がたくさんいます。内にも外にも相談できる相手がいる。データ分析をする上では、成長できる環境が整っています」。
新たな技術を追い求める研究の傍ら、日々の業務では、お客さまのお困りごとに耳を傾け、省エネ性と快適性を両立させるアルゴリズムが仕様通りに動くかテストを重ねている。「世の中には、『省エネ性能アップ』といった売り文句が溢れています。学生時代は気に留めることのない言葉でしたが、今はこのたった数文字の背景に、どれほどの努力と技術の進化があるかが分かります。省エネ性能の進歩は、すでに乾いている雑巾をさらに絞るような世界。だからこそ、性能目標を定めてそれを達成できた時の喜びは大きい」。データを活かすということは、別の見方をすれば、思いがけないデータを得ることができれば、それが新しいアイディアの種になるということでもある。これまでにはなかった発想を追い求めるクリエイティビティに溢れる世界でもあるのだ。
IoTソリューションは、まだまだ発展途上。世界中のメーカーが、空気質や人体情報をセンシングする技術でしのぎを削りあっていて、日々可能性を広げ、技術の限界を更新し続けている。パナソニックのなかでも、IoTをめぐる技術は、部署や製品の枠を超えて横断している。「ひと言で言えば、データを価値あるものに変える仕事です。努力の成果が社会に実装されていく。そこにやりがいと喜びがあると感じています」。既存の技術も、常識さえも超えていく新たな技術が生まれるのは、明日かもしれない。