エンターテインメントで、
いつか当たり前になる技術をつくりたい。
設計開発 青木 あすか
「おお!」と驚いた後、彼らは子どものように笑った。
それは映像クリエイターたちに自分たちのつくったプロジェクターを初めて見てもらった時のことだった。動いている物体に対して高速に追従する投影を可能にした、当時では最先端のプロジェクションマッピング技術にみんなの目の色が変わった。「これがあったら、こういうことできるんじゃないか」「こんな風に使ったら、みんな驚くぞ」いくつものアイディアが行き交い、瞬く間に部屋中が熱気で包まれていった。最後に「これを使いたい」って言ってもらえた時、ここにたどりつくまでの日々が頭に浮かんだ。
学生時代の青木あすかは、エンターテインメントとは無縁の世界で日々を過ごしてきた。大学では材料総合学科で合金のつくり方や、どうすると金属が破壊されるのかなど、金属が生まれてから壊れるまでを学んだ。研究室に入ってからは、半導体の物性の研究に取り組み、これまで電気的に測定していたものを、新たに「光」で測定する方法を探った。気がつくと週7日。ひとりで研究室にこもっていることも少なくなかった。しかし、誰も知らないことを分かっていくことはたのしかった。
「光」の可能性をもっと追求したい。それができる会社というのが、就職活動における基準となった。そのなかでパナソニックを選んだのは、照明はもちろん、太陽光からエネルギーをつくったり、通信手段や野菜の栽培に活用したりなど、さまざまな「光」の技術に取り組んでいたことが魅力的だったから。それだけに配属先を聞いた時は戸惑った。「光」とは関係がないように思える、オーディオや映像機器をつくる部門だったからだ。「最初は『なんで?』って思いました。でも、何でもたのしめればいいやって思う性格なので、これも頑張れば、きっとたのしくなるかなって。それに考えてみたらプロジェクターだって『光』を使いますから(笑)」。
大規模イベントなどにおいて、今や当たり前のように使われているプロジェクションマッピング。最近では動く物体への投影も増えてきているが、これにはプロジェクタ−の高速化が絶対条件だ。配属された部署では、「高速プロジェクションマッピングシステム」の開発に取り組んでおり、彼女はそのシステムを使えるようにするための「セッティングアプリケーション」の担当になった。
「このセッティングアプリケーションには2段階あって、まずは実際にカメラで撮った画角とプロジェクターが映そうとする画角のズレ、これを一致させるためのキャリブレーション。もうひとつが人に映像を追従させる時に、どういう条件下の時は追従するのか、あるいはしないのかなど、そういった一つひとつのパラメーターの調節でした」。実は彼女は、それまでソフト開発をしたことがなかったから、作業は試行錯誤の連続。「最初は全部調整できるように考えていたんですが、それだと私には分かっても初めての人にはとても使いづらいものになってしまいます。逆に全部最初に決めてしまうと、今度は自由度がない。そういったバランスを一つひとつお客さまに伺いながら調整していくのが大変でした」。
こうして完成したプロジェクターは、海外のあるショーに採用された。ダンスパフォーマンスとプロジェクションマッピングを組み合わせた、当時では実験的な舞台。映像クリエイターやパフォーマーたちと何カ月にもわたって一緒につくり上げていった。「無事に幕が下りた時は泣きそうになってしまって。自分たちのシステムが無事に動いてくれたっていう安心もあったのだと思いますが、みんなでつくり上げてきたものが、あんな風にたくさんの方に喜んでもらえるなんて。何もかもが初めての体験だったから、本当に嬉しかった」。エンターテインメントの世界で、いつか当たり前になる技術をつくりたい。今は、それが彼女の胸に灯る新しい「光」だ。