パナソニックの#はたらくってなんだろう ななめドラムで洗浄力と低振動を革新、技術連打で圧倒的トップシェアを独走

左から、寺井さん、松岡さんの写真

製造企業活動の源泉である技術者の創造性、専門性、勤勉性向上の奨励を目的に、パナソニック全社から優れた技術開発の栄誉をたたえるパナソニック技術賞。高度専門技術での事業貢献に与えられる、今年の中尾記念賞には「ななめドラム事業創出の基盤となる『洗浄・低振動化』技術、及び『UX価値創出』技術」が選出されました。縦型洗濯機でもない、ドラム式洗濯機でもない。パナソニックが唯一無二の「ななめドラム洗濯乾燥機」を販売したのは2003年。以来、新技術の連打で他社を圧倒し続け、国内洗濯機のトップシェアをキープ、経営に大きく貢献してきました。洗浄構造を担当したリーダーの寺井さん、脱水振動を担当した松岡さんに話を伺いました。

2023年02月

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プロフィール

  • 寺井 謙治

    パナソニック株式会社 くらしプライアンス社 ランドリー・クリーナー事業部

    寺井 謙治さんのプロフィール写真
  • 松岡 真二

    パナソニック株式会社 くらしプライアンス社 ランドリー・クリーナー事業部

    松岡 真二さんのプロフィール写真

目次

  1. 世界で一番使いやすく。窮地からの起死回生
  2. アイデアをすぐ形に、Fast Worksで価値創出
  3. MY WORKPLACE
  4. 意見や疑問を表明する。それが成長への一歩

世界で一番使いやすく。窮地からの起死回生

笑顔で話す寺井さん

「ななめドラム」のコンセプトはどのように生まれたのですか?

寺井 謙治さんのプロフィール写真
寺井

パナソニックが、「ななめドラム」に先んじてドラム式洗濯機を販売したのは1997年。欧州で主流の投入口が下部にあり真横から開くデザインは、国内市場に受け入れられませんでした。この課題を解決し、新たなドラム式洗濯機を開発するために私が打ち出したコンセプトは「世界で一番使いやすい洗濯機」。衣類を出し入れしやすくするために、ドラムをななめに配置し、投入口の位置を高く広くできるような新しい洗濯機の構成を提案しました。

開発にはどのような課題が?

寺井 謙治さんのプロフィール写真
寺井

ドラムをななめに配置するという独創的なアイデアゆえ、基本性能を確保するため、技術革新が常に求められました。中でも洗浄性能は最大の課題。水をたっぷり使って機械力で洗浄する縦型洗濯機と違い、ドラムタイプは元々節水タイプ。ドラムが傾斜している分、洗剤液が衣類全体に浸透するまで時間がかかってしまう。そこでドラムと投入口の隙間からシャワーを勢いよく噴射することで、少量の水でも短時間で衣類にしっかり浸透。さらに洗浄力を向上させるため、洗剤の力を引き出す泡化と温水化の技術に注力しました。水量が少なく短時間で温水にできるドラムタイプの長所を応用し、他社に先駆け衣類や汚れに応じて最適な温度を選べる各種温水コースを開発し、お客様に新たな洗濯の価値を提供することができました。

洗剤は泡にすると汚れを落とす界面活性剤が濃縮し、体積が数十倍に膨張して衣類への接触が増加します。また事前に泡立てることで洗浄効率が上がり洗濯時間も短縮化できます。これらの特徴を生かし、高濃度の洗剤液と空気をかき混ぜ、効率よく泡を生成する装置を開発。従来は泡立ちづらかった液体洗剤や汚れが目立つ衣類も容易に泡立ちやすくなりました。この泡化のヒントは液体が水面に落下するときに発生する気泡でした。日常生活でも見られる現象から着想を得て、かつて縦型洗濯機に搭載した泡化技術をななめドラムでさらに発展させました。さらに縦型洗濯機の洗浄力で大きな役割を果たすパルセーターと呼ばれる回転翼に倣いななめドラムの底面に凹凸部を設置し、従来の上下の動きに前後の動きを加えることで大容量の衣類も混ぜやすくなり、洗浄のムラを低減しました。これら水・洗剤・温度・機械の洗浄の4要素で愚直に技術連打を続けた結果、ついに縦型洗濯機を超える洗浄力を実現しました。

笑顔で話す松岡さん

振動抑制を担当した松岡さんはどのような課題解決を?

松岡 真二さんのプロフィール写真
松岡

振動に関して技術課題は主に二つありました。一つはドラムの回転軸と洗濯槽を支持する方向が垂直ではないため、特に脱水起動時に洗濯槽の振動が急激に大きくなること。もう一つは床面への振動伝達でした。木造家屋が比較的多い日本では床面への振動伝達がより大きくなってしまうため、本体重量の軽量化とななめドラム独自の低振動化技術が必要でした。

脱水起動時の振動抑制を図るため、重点的に改良をしたのが洗濯槽の投入口部分に配置している流体バランサー*1です。内部を流れる液体は仕切り板とぶつかり複雑に動きながら逆位相に移動するため、従来は精度の高い制御が困難でした。そこで解析技術者と共同研究を積み重ね、液体を粒子の集まりとして捉え、CAE*2により内部の動きを再現する技術を世界で初めて構築。解析データと実機の相関をすり合わせることで、液体をよりスムーズに逆位相へ移動できる最適な仕切り板の角度調整に成功し、洗濯槽振動を従来商品から約20%削減できました。また液体の本流の流れを重視し、分流した細部の飛散現象を大胆に切り捨てることにより、解析時間も約10分の1に短縮化しました。

解析技術をさらに応用し、洗濯槽振動と床面への振動伝達の両方を抑えるため、洗濯槽を堅固に支えて振動を吸収する新ダンパーレイアウトの具現化を目指しました。振動が最も大きくなる脱水起動時はダンパー力を高めることによって振動を抑えられますが、回転が安定領域に進むと、タンパー力が高い分、洗濯槽の振動が床まで伝わってしまう。この二律背反を解消するため、ダンパーの設置本数とそれぞれの減衰力、位置、角度など約60万通りの組み合わせから、脱水起動時の洗濯槽の振動と床面への伝達振動の両方を最小化するパラメーターを選定。最先端の解析技術により短期間で導出し、ダンパーレイアウトの防振形態を確立できました。

*1流体バランサー:脱水時の振動を軽減するための部品。ドラムの回転上昇に合わせ、バランサー内の液体が衣類と逆位相へ液体が移動することでアンバランスを矯正し振動を抑制する。

*2 CAE(Computer Aided Engineering):コンピューターを利用した工学支援システム。実際に試作や実験をしなくてもコンピューター上でさまざまなシミュレーションを実施できる。

アイデアをすぐ形に、Fast Worksで価値創出

開発について話す寺井さん

開発中、心掛けていたことは? またそこから得られた技術とは?

寺井 謙治さんのプロフィール写真
寺井

私は仮説設定から試作、顧客評価までをスピーディーに回す「Fast Works」を独自に実行してきました。ななめドラムに採用した泡化技術の源流もFast Worksの一つ。家電量販店などを巡っていると、泡を使った商品が多いことに気づき、洗濯機に生かせるのではと翌日さっそく試作に着手。身の回りにある材料でつくった簡易なものでしたが、「これはいける」と上司から太鼓判。多少粗くてもいい、素早く形にして見せることで実機開発が進むことを改めて実感しました。

もう一つは、洗濯機ユーザー宅の訪問です。他社製品も含め、直接ユーザーから使い勝手を聞き取り、どんな使われ方をしているかを観察することは、大きな意義があります。われわれは開発者であると同時に最初のユーザーでもあります。松岡さんも私もこれまでに自宅にプロトタイプを持ち込んでは、数多くのモニター試験を繰り返してきました。実生活の中で使用してみると、「こんな機能があれば」「ここは修正すべき」など不思議とアイデアが出てきます。

ななめドラムは国内洗濯機シェアで過去10年以上にわたりトップを独走中です。今後の展望は?

松岡 真二さんのプロフィール写真
松岡

これまで技術革新を連打し続けた結果、おかげさまで最新機ユーザーからの満足度は100%近くにまで達しています。また、グッドデザイン賞など数々の賞も受賞してきました。ですが、寺井さんも含めチームで誰1人慢心はありません。洗濯機開発は不確定要素が実に多く、今でも一番難しい家電商品なのではと思っているからです。どんな衣類、量で、どの程度の汚れなのか、使用する洗剤は粉末か液体なのか......、洗濯機の設置場所も含めるとお客さまによってまさに千差万別。そこにななめドラム固有の技術課題が加わることで、求められる技術レベルは幾重にも複雑化していきます。

特許を取得しても全ての技術を抑えきることは不可能です。だからこそ、常に新しい技術を連打し、他社をリードし続けることが必須です。開発中は「仮説通りに振動抑制を実現できるのか」と何度も疑心暗鬼になりました。支えになったのはお客さまの価値を限りなく高めていきたいという、技術者の信念でした。次の開発目標は超低振動ドラム式洗濯機です。お客さまの振動への不満を限りなくゼロに近づけます。

開発について話す松岡さん

MY WORKPLACE

パナソニック株式会社 くらしプライアンス社 ランドリー・クリーナー事業部(滋賀県草津市)

フロアにデスクが並び、PCで仕事をする社員たち

寺井さんは先行開発を担当する衣類ケア要素技術部、松岡さんはランドリー技術部に所属しています。衣類ケア要素技術部は比較的若い世代が多く、できるだけ早く成功体験を積ませるという育成方針を掲げています。成功体験のゴールとは商品化。高いハードルですが、成功の確率を上げて導くために、寺井さんが率先してFast Worksの重要性を説きながら、適宜アドバイスを送っています。

意見や疑問を表明する。それが成長への一歩

リーダーとして心掛けていることは?

寺井 謙治さんのプロフィール写真
寺井

ななめドラム洗濯乾燥機の開発当初、一番大切にしていたのはベクトルの一致でした。世にない商品であることから幾度も壁に当たり、「なぜこの商品が強く、なぜ開発すべきなのか」メンバーから理解を得ることを徹底しました。開発で困難であればあるほど、チームワークが大切です。たとえ斬新な発想であっても、メンバーが付いてこなければ、何も実現しない。ベクトルの一致が開発スピードを何倍にも加速させると身をもって経験しました。

寺井さんとの仕事を通じてご自身で変化したことは?

松岡 真二さんのプロフィール写真
松岡

寺井さんは、自分の考えを率先して発信し、チームに活気を与えるアイデアマン。私は元々量産設計を担当していましたが、ゼロからアイデアを生み出し、既成概念にとらわれない独創的な発想に刺激を受け、先行開発の面白さに夢中になっていきました。今回、8年ぶりのフルモデルチェンジとなる最新機種のプロジェクトリーダーに就き、改めて実感したのですが、開発の成否はリーダーの気概が握っていると。寺井さんから受け継いだ姿勢を次世代にも伝えていきたいです。

若い技術者へのメッセージをお願いします。

寺井 謙治さんのプロフィール写真
寺井

技術者は技術だけを理解していればいいと思いがちですが、それは違います。お客さまがどんな商品を求めているか、どんな商品ならヒットするのか、常にアンテナを張っておくことで他社と差別化できる強い商品が生まれます。私の部署では若手技術者と定期的に雑談をする機会を設け、商品企画のアイデアにつながりそうなテーマについて自由に意見を交わしています。技術開発につながるヒントは至る所にある。幅広い視野を持つ若手技術者を一人でも多く育成していきたいです。

松岡 真二さんのプロフィール写真
松岡

たとえ若手であっても、自分の考えや信念を堂々と人前で伝える。知らない技術があれば、恥ずかしがらず素直に質問する。それが成長の一歩だと思っています。「誰かが言っていた」などという第三者の言葉ではなく、常に意見は一人称で「私はこう考えます」と。自分の意見を遠慮して言わないまま疑心暗鬼の状態で開発が進むより、たとえ意見がぶつかっても議論を積み重ねる方が大切です。パナソニックグループは会社の規模が大きく、立場が上の方と意見を交わす機会が多々ありますが、こんなときこそ成長のチャンス。ポジションに関係なく、率先して自分の考えや意見を表明するべきです。考え方の違いや批判を恐れることはない。どんな時も自分の信念を貫いてほしいです。

*所属・内容等は取材当時のものです。

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