くらしに身近な生活家電から、照明、配線器具、空調機器、冷凍・冷蔵機器など、幅広い製品を手掛けるパナソニック(株)。国内だけで10カ所を超える工場があり、「人や社会、地球環境を含めて長期目線でウェルビーイングなモノづくり」に取り組んでいます。そこに欠かすことのできないエキスパートが、環境貢献に関わる環境職です。
パナソニックグループは「Panasonic GREEN IMPACT*(以下、PGI)」で、2050年までに約3億トン*のCO2排出量の削減を掲げています。それは、自社や社会のCO2排出量を減らし、地球温暖化の解決に取り組むことがグループの最重要課題と考えているから。グループ全体がバリューチェーンを含めて排出するCO2量は世界において1%、日本全体の10分の1にあたる大きな責務です。中でも、パナソニック(株)の事業は、その90%を担います。モノづくりの過程はもちろん、お客さまに販売した製品が排出するCO2量を含めて、環境負荷軽減の取り組みを加速しています。
今回の対談には、パナソニック(株)の社内分社であるくらしアプライアンス社、空質空調社、エレクトリックワークス社の「環境職」のメンバーが集まりました。パナソニック(株)の環境職とは、またPGIの達成に向けた想いを聞きました。
*Panasonic GREEN IMPACT:2050年に向け、3億トン以上のCO2排出量削減を目指す活動。パナソニックグループとして⾃社のCO2排出を実質ゼロに。さらに、くらしやビジネスにおけるCO2削減に貢献し、社会のエネルギー変⾰にインパクトを広げながらカーボンニュートラルを目指す。詳細はこちら
※ 2019年 エネルギー起源CO2排出量 336億トン(出典:IEA) 3億トンは2020年の排出係数で算出
2023年05月
プロフィール
-
若月 豪
パナソニック(株) くらしアプライアンス社 ビジネスプロセスイノベーション本部 環境推進センター 環境推進部 ソリューション推進課
2018年入社。理工学部機械工学科卒。製造革新本部に配属後は環境職に従事。部内外で省エネ診断技術研修などを受け、エネルギー管理士の国家資格を取得。
-
豊島 千栄
パナソニック(株) 空質空調社 品質・環境室
1989年入社。半導体事業部門、開発管理部門を経てモノづくり本部環境品質センターに異動。事業場の環境管理や環境パフォーマンスの開示業務に従事。2022年4月から空質空調社の環境業務に就く。
-
井上 大輔
パナソニック(株) エレクトリックワークス社 品質環境センター GX推進部
2008年キャリア入社。ソーラー事業部門で設備導入や省エネ推進、マレーシアへの海外赴任などを歴任。2021年度に現部署に異動し、企画と工場管理を担当。
目次
ものづくりの現場とともに環境事故ゼロ、CO2ゼロを追求
みなさんの担当している業務について教えてください
エレクトリックワークス社は、住宅やオフィス、空港、駅、商業施設などの照明や電気設備に最新技術を導入し、省エネ・カーボンニュートラルの実現に取り組んでいます。私の仕事は、PGIを推進するための環境企画や環境設備の管理。門真地区(大阪府)の各部門が設備導入・廃棄する際の行政への届け出窓口や、環境マネジメントシステムに関する国際規格(ISO14001)の認証取得なども行っています。CO2ゼロ工場の推進については、各工場と事業部の環境事務局、また生産技術部門などと連携しながら活動しています。
空質空調社は、家庭用のエアコン事業を軸に、業務用空調事業や温水システム事業をグローバルに展開しています。私の役割は、環境経営の推進とその体制づくり。パナソニックグループと空質空調社が策定する方針に沿って、それぞれ現場で成果を出すための仕組みをつくり、運用していくことです。
なぜ、パナソニック(株)は環境への取り組みに力を入れているのですか
パナソニックグループの製品は、世界中で毎日10億人以上が使用しています。中でもパナソニック(株)の事業領域は幅広く、国内外に数多くの工場を有しています。つまり、それだけ工場から排出されるCO2や製品を使う際に出るCO2も多いということです。つまり社会のCO2排出量の削減に大きな責務があるのです。
空質空調社は水と空気に関する製品を扱っているので、一般の方から見ても事業が環境とイメージが直結しやすいかもしれません。例えば、エアコン等の空調機器は大量の電力を使うので、製品の省エネ化が直接環境につながります。また、空気の温度、湿度、清浄度を調整する空調機の場合、室内の空気が汚れたからといってむやみに空気を排出し、熱エネルギーを消費してしまってはもったいないですよね。そこで、空気中の熱を回収して、熱エネルギーは保ったまま、汚れた空気のみを排出するといった機能をもつ製品が環境保全に貢献します。
PGIでは、カーボンニュートラルの実現に向けて自社が行う取り組みを、3種類のインパクトで提示しています
私のCO2ゼロ工場の取り組みは、PGIで示す「OWN IMPACT=自社バリューチェーンにおける排出削減インパクト」の一つです。カーボンニュートラルを実現するために、工場の日々の取り組みが社会への貢献につながっています。
PGIのポイントは、製品を販売、納入した後まで含んでいること。お客さまが使用する際に製品が排出するCO2や、廃棄に関わるCO2も、私たちの責務と考えています。これが極めて重要な視点で、社会へのインパクトも強い。パナソニック(株)は家電の省エネ化はもちろん、製品の電化やエネルギー利用の効率化、水素など脱炭素エネルギーの利活用など、新技術を駆使した取り組みも進めています。
H2 KIBOU FIELD/RE100の実証施設「H2 KIBOU FIELD」
エレクトリックワークス社では太陽光発電と純水素型燃料電池の導入を拡大。純水素型燃料電池と太陽電池を組み合わせた自家発電により、事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで賄う「RE100ソリューション」実証施設「H2 KIBOU FIELD」を2022年4月に稼働
また、モノづくりを行う企業には、化学物質の開発から廃棄に至る過程で環境・安全・健康面の対策が求められます。有害物質による大気・土壌汚染、水質汚濁などの環境事故を起こさないように、国内外の工場の環境監査、体制維持のサポートも行っています。海外の工場では、環境の活動、廃棄物置き場の確認などを、その国の環境法(環境を保護・維持し、改善することを目的とした法)に基づいて現地の方と一緒に点検します。最近はインドの工場に行ってきました。他にもトルコやベトナム、中国、タイ、インドネシアにも工場があります。それぞれの国で環境事故ゼロ、CO2ゼロを達成することが私の任務です。
井上さんは、これからの環境貢献についてどう考えていますか
今までは設備を動かすための空調・電気・ガスの省エネ対策が主でしたが、これからは製品をつくる生産設備のエネルギー削減も突き詰めていく必要があります。しかし、そこにはモノづくりの品質にかかわる課題が生じます。パナソニックには製品によって温度・湿度、空気のきれいさなどのモノづくりの条件があり、生産設備に変更を加えることで品質に影響が出る場合もあるのです。ただそこで立ち止まらず、工場の施設担当者、生産設備をつくる生産技術とも連携し、アイデアを出し合って新しい切り口を見つけていく、そうした省エネに挑む段階です。
入社5年目の若月さんが感じる課題や、課題に対する考えを聞かせてください
工場では、井上さんが言うようにモノづくりの品質と省エネのせめぎ合いもあります。お客さまにとっての品質が第一ですから、省エネに注力して品質に影響が出ることは避けなくてはなりません。それでもなんとか省エネの実現を、と現場の方にこちらの想いを伝えるのが難しいところです。大切なのは、現場との信頼関係を築くこと。できるだけ工場に足を運んで意見を聞き、互いに腹落ちするまで話し合って打開策を模索します。取り組みがスタートしたあとも、成果を見ながら、達成感を共有したりしています。
また、省エネ技術は熟練者の経験や知識、感覚に頼る部分が多いと感じます。この課題を解決しようと開発したのが、業務効率化ツールです。タブレット端末で「環境貢献をするために何に着眼すべきか」を現場で一つずつ見つけていき、改善のヒントが得られるように設計しました。これを活用して、例えば若手の社員などにも各工場で実践されている環境施策を共有し、ノウハウの能力差を埋めたいと思っています。
それは画期的ですね。何より現場で働く社員の主体性が大切ですから、タブレット端末で手軽に操作できる使いやすさがいいですね。
環境はマインドから。関わる人々に、環境の重要性を自分事と捉えてもらうのが第一のミッションです。さらに、省エネ活動の改善成果を数値化してフィードバックすることで、価値と意義のある取り組みだと認識してもらえたら、社全体で意識が高められると思います。
そうですね。省エネ活動はエネルギーの削減につながり、コスト削減にも直結しますから、事業経営にもしっかり貢献できる。私たちは環境業務と事業経営とのバランスを連動させて考え、管理することも大切です。
未来の課題を考え、新たな領域へ チームで取り組む環境職
これからへの想いを、それぞれ聞かせてください
私のミッションは、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミー、環境コンプライアンスなど、事業を通じて社会の要請事項を実現させること。PGIを掲げて社会をリードする"攻めの環境"に取り組めるのは、これまでパナソニックグループが提唱し、行動し続けてきた環境貢献の土台があるからです。自分ができることは小さいけれど、パナソニック(株)として全体で成し遂げられることは大きいはずです。しっかりと貢献を積み重ねたいと思います。
2022年に「2030年までに全事業会社の工場のCO2実質ゼロ化へ。省エネを加速しなければいけない」と社長から発信があり、私はまさに直結する仕事を担っていると感じました。大きな目標に携わっているのだと、やりがいを胸に進んでいきたいです。
今や環境職は、モノづくりの領域にも斬り込んで、省エネ活動が及ぼす社会への影響力を示さなければなりません。私が印象的だったのは2021年に阪神甲子園球場の照明がパナソニック製のLEDに替わったときのこと。消費電力を従来比で60%削減し、LEDならではの明るさはもちろん、光の演出で球場全体が盛り上がりました。これは環境とエンターテインメントの理想的な形で、モノづくり企業ならではの社会へのインパクトです。こうしたモノづくりができるのがパナソニック(株)の強みだな、と甲子園のスタンドで実感しました。
今後、どんな人材と出会いたいですか
さまざまな現場の人と直接コミュニケーションできるのが、パナソニック(株)の環境職です。私は今、空質空調社の環境職として新しく入られる方が仕事をしやすいようにサポートすることに全力で取り組んでいます。環境のことを大切に考え、事業を通して貢献をしたいと意欲を持った人に出会えたらと願っています。
私は学生時代に京都議定書が定められ、地球温暖化がどんどん加速すると騒がれ、「何か地球環境に役立つ仕事ができれば」と思いました。モノづくりで環境に貢献することに魅力を感じている方は、きっとパナソニック(株)の事業に賛同してくださると思います。熱い思いと、たくさんの興味の種を持って、ぜひ環境職の扉をたたいてください!
*所属・内容等は取材当時(2023年2月)のものです。
くらしアプライアンス社は、炊飯器や冷蔵庫、洗濯機、美容家電など、お客さまの食と健康をサポートする白物家電を中心とした事業を展開しています。私の業務は、その白物家電を製造する各工場を対象にした省エネ活動。「省エネ部隊」として工場に入り込み、現場でエネルギーロスを調査します。
例えば、空調の設定温度や稼働時間、フィルターの汚れ具合などのデータを取り、省エネにつながるポイントがないか確認します。課題が挙がれば、改善案を現場の人たちと一緒に考え、実行へ。省エネの一歩目は、データを見える化すること。計測器を機器に取り付け、工場の人たちが自身で数字を確認しながら制御を行うことで、省エネ意識を高めていきます。1年単位で削減目標を決め、課題を解決するまでフォローするのが役目です。