パナソニック(株)のモノづくりの特徴は、商品開発から生産まで自社で一貫して行う体制。そして家電や照明、配線器具や空調機器など幅広い製品群に対応できる高い技術力です。そこで製品の開発工程と製造工程をつなぐ要となるのが生産技術。
生産技術職は、量産に向けた生産設備の設計・工法開発、量産後の生産設備の保守・メンテナンスなど、製造ラインの各工程を熟知し、モノづくりプロセスの最適化を実現するプロデュ―サー。検査工程の精度追求による品質向上や部品を組み入れる処理スピードアップによる低コスト化など、モノづくりで重要なQuality(品質)、Cost(コスト)、Delivery(納期)に貢献します。モノづくりにおいて何よりも優先されるのは安全性、その上で安定した品質と無駄のない量産化を目指して最新技術を取り入れています。
2023年05月
プロフィール
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團 隆志
パナソニック(株) エレクトリックワークス社 現場・ものづくり革新本部 製造システム開発部 機械技術開発課
2017年入社。長崎大学工学部 機械工学専攻。次亜塩素酸 空間除菌脱臭機「ジアイーノ」の試験装置設計、電動自転車用の充電器製造ラインの自動化などを担当。熱交換器の新たな工法開発にも取り組む。
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緒方 隆二
パナソニック(株) くらしアプライアンス社 ビジネスプロセスイノベーション本部 製造革新センター 工法開発部 成形技術開発課
2018年入社。長崎大学工学部出身、機械工学専攻。カメラ部品のレーザー溶着の工法開発を経て、CAE解析を活用したプレス成形部品の先行・量産開発に従事。
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落合 優里
パナソニック(株) エレクトリックワークス社 エナジーシステム事業部 ものづくり革新センター 生産技術部
工業高校でメカトロニクスを学び、2008年に入社。製造部門で電気系組み立て作業に従事し、電気系設計部門に異動。津工場(三重県)に異動を希望し、設備開発課を経て工法開発課へ。2児の母、産休、育休を経て現在時短勤務で勤務中。
目次
製造ラインの全体を見渡し、モノづくりをリードする
パナソニック(株)の生産技術に携わる3人に集まっていただきました。みなさんが担当している仕事を詳しく聞かせてください。
製品によって検査内容が異なるため、画像認識装置で使用する照明やカメラの設定も調整する必要があります。どのカメラを使うか、どのような設定が最適か、検証を繰り返しながら装置を開発していきます。またその装置を使うフローの作成や、実際に装置を使用する製造現場の方への説明なども行います。
私は、製造ライン上のレーザー加工やプレス加工などの工程を一つの設備に集約し、生産プロセスを効率化する業務を担当しています。現在取り組んでいるのは、屋内照明の新商品を量産するための設備設計です。商品開発部門と製品の設計図面を見ながら「量産に耐える形状か」などを協議するところから仕事が始まります。その時に、製造ラインで自動化できる部分を見極め、より精度の高い工法を検討します。
例えばネジを締める工程を自動化した場合、ネジの位置に対して本体を寸分違わず置くことが理想です。しかし、本体の大きさにばらつきがあると「カメラで撮像→位置を補正する」という工程が増えるため、その分だけ製造時間もコストもかかってしまいます。そこで、その工程をより効率的かつ的確に行うために、本体の形状からの見直しを商品開発部門へ提案します。このように、安定して量産を行うために製品の開発工程にも改善を提案していくのが生産技術の役割の一つです。
私はドラム式洗濯機を初め家電部品全般の板金部分の工法開発を担当しています。特徴的なのは、製品の開発段階から関わること。製品に取り入れる機能やデザイン、価格設定、新技術の実現性などを検討しています。そこで重要なのは、コンピューター上のシミュレーションを駆使したCAE解析で、量産化にあたっての課題を洗い出すこと。
製品の設計図面やデザインを具現化するために、量産時のプレス加工で起きうる製品の形状や金型、材料への影響を多面的に探ります。量産前に課題点を商品開発部門やデザイン部門へフィードバックすることで、量産後のトラブル発生や発生時の課題解決までのタイムロスを減らせます。また、プレス加工の工程数自体を減らすための工夫や、材料を無駄なく使う取り組みなど、コストを抑える提案にも積極的に取り組んでいます。
どんなところに仕事のやりがいを感じますか。
商品開発部門やデザイン部門と連携し、製品のデザインや開発段階からモノづくりプロセス全体に関わることができる活躍領域の幅広さにやりがいを感じます。生産技術の仕事といえば、工場で生産設備に問題が起きないかチェックすることや、設備や部品の保守・メンテナンスなど一面しかイメージしていなかったので意外でした。
私は自分たちのチームがつくった生産設備が実際に製造現場で稼働しているのを見ると、やって良かったと実感します。また、そこでできあがった製品は、わが子のように感じます。特に、検査の基準が難しかった商品ほど思い入れは強いです。
私も、担当した製品が販売されている売り場を見ると、感慨深いです。成形を担当した部分を「きれいに仕上がっているな」と触ってみたりして(笑)。品質を保持しながら生産性を高めることも生産技術の重要なミッションですから、販売価格にも貢献し結果として会社の経営に貢献できるところもやりがいです。
その気持ち、すごくよく分かります。「これだけの質のものが、この価格で売られている」と誇りを感じるというか。パナソニック(株)で人々のくらしに身近な製品に携わる喜びでもありますね。
私にとってやりがいの一つは、工場の現場から「楽になったよ」と声をかけてもらうこと。設備の自動化や省人化、設備の安定稼働による稼働率向上やエラーやトラブルの減少が実現できれば、その分だけ製造工程で働く方の作業負荷が軽減できます。生産技術の仕事は、品質の高い製品をお客さまにお届けすると同時に、工場現場のモノづくりプロセスの改善に貢献できる仕事でもあります。
製品のコア技術+改善のサイクルで、新たな時代の製品価値を生み出す
設備の改善や開発では、どんなスキルが求められますか。
生産設備が完成するまでには1年以上かかることも多く、いかに計画通り進めるかが重要です。新商品は発売時期が決まっているため、生産設備の導入・立ち上げの遅れは許されません。スピード感をもって仕事をするには、論理的思考と決断力が必要です。新たな工法を開発するやり方はいろいろあって、正解は誰にも分かりません。だから、自信を持って決断できるまで論理的に考え抜くスキルが求められます。
協業するみなさんとの対話力も必要ですよね。生産技術は設備を導入・立ち上げするだけではなく、その後の設備のメンテナンス性を考えることも非常に大切です。配線器具の製造現場では同じ設備を10年、20年と長期間稼働させることも多いため、実際に製造現場で「どうしたらメンテナンスしやすいか」などの意見を聞いて、新たな設備設計に反映するのも業務の一つ。時には商品開発部門の方針と製造部門の意見が真逆を向くこともありますが、そういう時は密にコミュニケーションをとって解消していきます。
生産技術のみなさんから見た、パナソニック(株)ならではの強みとは。
入社後に分かったのですが、生産設備の設計を自社で行っているメーカーはそう多くありません。パナソニック(株)はそこを内製している場合が多く、安全性、品質、そしてコストまで一貫して自社で追求することができます。複雑なモノづくりほど、商品開発部門や製造部門と意見をしっかりすり合わせた上で生産設備の設計を行うことが重要ですから。
パナソニック(株)には、長年培ってきたモノづくりに関する知見・ノウハウが蓄積されています。また、多様な製品群があり、扱う技術領域の幅が広いのも特徴です。例えばプレス加工は、社内で別の製品の工法を活用することもあります。技術の横展開や掛け合わせで、モノづくりに必要な新しい技術を生み出せるのが強みだと思います。
そうですよね。あとは、なんといっても「人財」だと思います。キャリアの長い方が多いので、みなさんが歩く辞書のよう。困った時はいつでも相談できて、的確なアドバイスをもらえる環境が身近にあります。
その通りです!相談すると、みなさんどんなに忙しい中でも必ず手を止めて教えてくれるので、いつもそのやさしさに助けられています。
パナソニック(株)で、これから実現したいことは。
学生時代は、障がいのある方や高齢者向けの製品に携わりたいと思っていました。今も「自分が生み出す技術が困っている誰かのチカラになれば」との想いを持ち続けています。今後は工法や製品に対する知見をさらに深めて、商品開発にも貢献できたらいいなと。世の中には人の役に立つ技術があっても、製品として量産できず、世に届けられないものがあると思います。その扉を開くことが、生産技術である自分の使命だと思っています。
サステナブルであることが求められる時代。昔のように大量にモノをつくり、不良があれば捨てるという考えは通用しません。私たちの業務で言えば、製造工程での検査精度を向上させ、製造工程に迅速にフィードバックするサイクルを回せば、まだまだ不良の数を減らすことができます。良品率を向上させて無駄のないモノづくりを実現し、生産技術としてさらに社会貢献をしていきたいと考えています。
まず板金加工の第一人者になり、10年後には社内外からも特に塑性加工の第一人者として認められること。また、樹脂成形などの分野、さらには設備やサプライチェーンも含めた生産技術全般の知見を習得できたらと考えています。最終的には工場全体の最適化を行う工場長のような役割を目指せたら。パナソニック(株)は海外にも多くの製造会社を有しているので、貢献できる場は世界に広がっています。
生産技術職に興味を持っている方にメッセージを。
私の部署は、自分で設計した生産設備が実際に稼働するまで見届けられるのが魅力です。一般的に「生産技術」は、生産設備の保全・メンテナンスの業務が多いと思います。パナソニック(株)では、もちろんその部分で貢献する喜びもありますが、製品のデザイン、開発段階から製造段階までモノづくりプロセス全体に関わる仕事です。その幅広さがきっとやりがいにつながると伝えたいです。
新商品や展示会などで世の中の新技術にふれることも多く、常に新鮮さのある仕事です。幅広い知識を習得すれば、さまざまなモノづくりプロセスで生かすことができるので、好奇心旺盛な人が活躍できる仕事だと思います。
生産技術の仕事の中でも、私の取り組んでいる先行工法開発は「これまでできなかったこと」への挑戦です。過去の文献、データと共に常に新しい情報を手に、理論に基づいて仮説検証を繰り返して道を切り開く面白さがあります。これからは「加工が難しい」とされてきた形状やデザインの実現にも挑んでいきたい。私たちの仕事は、お客さまに選ばれる製品の魅力を具現化する可能性を秘めています。前向きなチャレンジを続けていく、そこに魅力を感じる方たちと、ぜひ一緒に未来をつくっていきたいですね。
*所属・内容等は取材当時(2023年4月)のものです。
私が行っているのは、コンセントやスイッチ等の配線器具や、人感センサーを製造する設備・生産プロセスの開発・改善です。製造ラインには撮影された画像から良品・不良品を判定する画像検査工程があります。従来はその検査を人が目視検査で行っていましたが、画像認識システムを導入して自動化を実現。画像認識システムをもとに設備が良品判定を行う生産プロセスの開発を行っています。