パナソニックの#はたらくってなんだろう
メガワット級の発電に対応 RE100を実現する「どこでも発電所」~業務用純水素型燃料電池5kWタイプ H2 KIBOU~

クリーンエネルギーで脱炭素社会の実現に貢献する――。H2 KIBOUはCO2を排出せずに水素を使って電力安定供給が可能な純水素型燃料電池です。複数台を連結させることで5kWから1ユニット最大1.25MWまでのフレキシブルな出力を実現します。世界各国・地域は2050年のカーボンニュートラル実現を目指すと宣言しましたが、その実現には太陽光や風力など再生可能エネルギー(再エネ)の導入が必須です。とはいえ、再エネによる発電は気象条件によって出力が大きく変動し、需要に合わせた発電量の調整が難しいゆえに、余剰電力を蓄電池や水素などに蓄えるなど不足電力を補う仕組みが欠かせません。業界最高発電効率の燃料電池であるH2 KIBOUは、「RE100*」に向けたソリューションを多様な事業者に提案します。
*RE100:Renewable Energy 100%の略で、事業で使用するエネルギーを100%再生可能エネルギーで調達することを目指す取り組み。
プロフィール
-
堀 慎一朗
パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社 スマートエネルギーシステム事業部 燃料電池技術部
-
石野 寿典
パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社 スマートエネルギーシステム事業部 燃料電池CS・品質保証部
-
武部 安男
パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社 スマートエネルギーシステム事業部 燃料電池事業横断推進室
-
河村 典彦
パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社 スマートエネルギーシステム事業部 燃料電池事業横断推進室
目次
高い発電効率を実現 連結により可変する出力が利便性を向上
純水素を使用するH2 KIBOUはCO2排出量がゼロ。都市ガスから水素を生成するエネファームと比較すると、水素をそのまま利用できるので、すぐに発電可能です。都市ガスの成分によって仕様を変更する必要がないため、グローバルに商品を展開できます。定格出力は5kW、これは小さなコンビニエンスストアで使用する電力を賄えるパワー。これをPC制御なら10台、PLC制御なら250台までを一つのユニットとして連結可能で、5kWから1.25MWまで必要な電力に応じてカスタマイズができ、ユニットを増やせばさらに大出力へ対応します。設置場所が限られる太陽光や風力発電とは異なり、場所を選ばず事業規模に合わせて設置できるまさに「どこでも発電所」です。
再エネ発電の多くが発電効率20%~30%に留まる中、火力発電並みの56%もの高い発電効率をほこるH2 KIBOU。業界最高峰の発電効率を高出力でも支えるのは、5kWの比較的小さな出力のH2 KIBOUを連結して使用するという発想です。例えば、100kWまで出力可能な大型発電機を需要に合わせて、20kWなどへと出力を変動させると、発電効率は落ちます。H2 KIBOUは5kWの定格出力をフルに発揮しながら連結をさせるため、出力を可変させながらも、高い発電効率を保つことに成功しています。また、電力需要が低い場合は、連結した燃料電池の一部を休止させ、各燃料電池の稼働時間なども踏まえたシステム制御を行うことで、設備全体の長寿命化にも貢献。仮に1台の燃料電池が故障で停止しても、対象の機器だけを交換できるため、事業に必要な電力を出力し続けながら同時にメンテナンスが可能で、事業の安定継続に寄与します。
またH2 KIBOUは、発電により発生する熱を利用してお湯を供給するコジェネレーション方式と、内部ラジエーターによって熱を外に逃がすモノジェネレーション方式の二つのモードを搭載。コジェネレーション方式で発電を続けて貯湯ユニットが満タンになれば、自動的にモノジェネレーションに切り替わり、発電を止めずに無駄なく熱を取り出せる利便性を実現しています。
見た目から「サステナブル」を表現する 環境に優しい素材・工法の選択
H2 KIBOUは、外装からもその先進性とエコフレンドリーな設計思想が伝わるようにと旧アプライアンス社(現くらしアプライアンス社)デザインセンターと連携して、リサイクル率の高いアルミを筐体として採用しました。縦ローレットのデザインは、屋外での防汚性に優れており、複数設置時にも整然とした印象を与えます。
製造方法にも工夫を凝らしています。アルミの押し出し材を連結し部材を作る工法はサイズの拡張性が高く、材料ロスが少ないため、無駄のないモノづくりに貢献します。さらに建材でも多く使われるこの工法を生かしたデザインにより、マンションなど都市生活空間に親和性を持つ外観になりました。また、アルミの製造工程の中で副次的に生成される水素を回収・精製することで、H2 KIBOUの燃料に使用することもできます。デザインを通じ、本機器の目的である「循環型社会実現への貢献」というメッセージを表現しており、2021年度グッドデザイン賞ベスト100や iF DESIGN AWARD 2022 を受賞するなど国内外で高い評価を得ています。
オリパラレガシー「HARUMI FLAG」に採用 最先端の街づくりのインフラを担う
2020年東京オリンピック・パラリンピックの選手村の一画に、H2 KIBOUのプロトタイプが導入されました。東京都が主体となって取り組む「水素プレゼンテーション事業」の一環として、選手村内にマッサージチェアなどを置いたリラクゼーションハウスを建設。新型コロナウイルス感染症の影響によって、自由に選手村から外出できない選手たちに癒やしを与えました。このリラクゼーションハウスで使用する電力を全て水素で賄うことで、クリーンなエネルギー源としての水素が注目を浴びました。
パナソニックは選手村跡地に誕生する再開発事業「HARUMI FLAG」にコンセプト企画段階から参加。「10年後でも最先端の街であり続けてほしい」というデベロッパーの要望を受け、再エネと連携した水素を取り入れた街づくりを提案した結果、街区共用部の電力供給源として純水素型燃料電池が採用。H2 KIBOUの製品化に向けた開発が本格化しました。最高効率の性能を追究するにとどまらず、外観から最先端テクノロジーを搭載しているとユーザーに伝わるデザインで、顧客満足度の向上を図りました。
水素インフラを本格的に社会実装した街は「HARUMI FLAG」が国内初。水素を活用するとはいっても、それだけに頼るわけではありません。区域内には系統電力も引き込まれます。高層マンション23棟の共用部にはパナソニックの太陽光発電や蓄電池システムを設置し、マンションのエネルギー管理システムであるMEMSを導入。H2 KIBOUも街区全体のエネルギーマネジメントシステムに組み込み、連携させることで、電力消費の平準化を図り、クリーンでサステナブルな街づくりに貢献します。
オリパラでプロトタイプを披露 目標は業界最高の発電効率
堀 慎一朗 [開発リーダー]
純水素型燃料電池は2020年東京オリンピック・パラリンピックの選手村への導入が決定し、開発がスタートしました。絶対に妥協できなかったのは発電効率で、当時他社製の純水素型燃料電池が発電効率50%程度にとどまる中、パナソニックとして初めての純水素型燃料電池となるH2 KIBOUは、環境貢献と当社技術の優位性を示すため業界最高*の発電効率56%(LHV)を目標に定めました。
発電効率を高めるには水素の使用量を抑える必要がありますが、抑えすぎると発電に必要なコアパーツであるスタックが壊れてしまいます。開発当初はいくつものスタックを壊してしまい「56%は無理だ」と弱音を吐きたくなる瞬間もありました。そんな時に力を貸してくれたのは技術本部など事業部外のメンバーです。燃料電池を動かす基本的なアルゴリズムを見直すなど、先行開発の担当者に設計思想からヒアリングをしながら、純水素型燃料電池特有の技術を事業部に落とし込むまで並走してもらい、プロトタイプを完成させました。
その後、オリパラレガシーとして選手村跡地に誕生する最先端の街「HARUMI FLAG」は水素を活用した街づくりをコンセプトにした高級住宅地、そのマンションのすぐ側に純水素型燃料電池を設置することが決まりました。ここに設置する際に、配慮すべき項目が騒音でした。純水素型燃料電池はその構造上、空気を取り込むポンプを複数台搭載する必要がありましたが、石野さんをはじめとするソフト開発のメンバーの頑張りでこの課題をクリア。カタログ値で60dB、体感的にはお客様から「本当に動いてる?」と言っていただけるレベルの静音性を実現できました。
*2021年10月、パナソニック株式会社調べ
ソフトウエア開発で騒音を解決 一体感が生んだモノづくり
石野 寿典 [ソフト開発]
空気を取り込むポンプを複数台搭載しているので、干渉しあって音がはねるような現象を引き起こしていました。うねるような不快な駆動音が発生して......。エネファームでは発生し得ない問題だったので、初めての経験となったのですが、ソフトウエアでポンプの動きを制御して干渉を低減、劇的に騒音を減らし、カタログ値で60dBという静音化を実現しました。ソフトウエア開発担当外の課題だったのですが、自分の専門でできることはないかと、皆と連携をしながら、実験を繰り返してソフトウエア担当として静音化に貢献できました。
堀さんをはじめとして、このプロジェクトに関わったメンバーが、自分の専門領域・職能にとどまることなく、知恵を出し合い、全力で仕事に取り組んだからこそ、本プロジェクトが成功したと思います。ソフト開発のリーダーとしてH2 KIBOUという未来を創る商品を担当させてもらうことができ、今後の仕事のモチベーションにつながりました。
オリンピックのその先へ カーボンニュートラル社会実現に向けて
武部 安男 [商品企画]
この2~3年で一気に世の中の脱炭素への流れが変わって、やってきたことが正しい方向だったのだと、改めて自信につながりました。2014年に開発がスタートした当時は、水素を利用する燃料電池はあくまで当社技術のデモンストレーション用で、開発メンバーも含めて社会全体で水素を活用するという未来が見えていなかったのが正直なところ。製品化が決まり、「オリンピックで打ち上げた花火で終わらせたくない!」という思いで、お客様への訴求方法や情報発信の方法にも工夫を重ねてきました。H2 KIBOUで実現できるモノづくり現場はどういったものか、水素エネルギーでかなえる未来はどういったものか、具体的にイメージさせ、共感していただくことに主眼を置いています。
2050年に完全カーボンニュートラルを実現するには、再生可能エネルギーで作った水素を純水素型燃料電池で利用して発電するしかないと私は考えています。今回、カーボンニュートラル実現に欠かせないH2 KIBOUの開発に関わって、事業だけでなく地球環境にも貢献できたかとうれしく思っています。
RE100実証サイトに高まる期待 次世代エネルギーを担う水素の未来
河村 典彦 [事業企画]
開発が完了してからも、販売に向けて準備を進め「RE100」を目的としたソリューション提案を進めてきました。計算上の話をしていてもイメージしづらく、これでは伝わらない。まずは自分たちで本物の実証装置をつくり、より多くの人に見てもらいたいと考えました。草津拠点にある燃料電池工場(C17棟)の全使用電力を賄うことを目指し、さらに建屋の屋上に敷設することを想定して実証設備の面積を策定。太陽電池、蓄電池、そしてH2 KIBOUを配置したRE100実証施設「H2 KIBOU FIELD」を1年余りで完工させました。
大きな出力の発電施設への法令は定まっていますが、H2 KIBOUは5kWの低出力のものを束ねて、出力を大きくする発想の発電機なので、これに対応する法令がなく、行政との調整に非常に苦労しました。こちらから法解釈を用意して提案する、法規に則った制約を機器側に適用できるように開発側で調整してもらうなどして、なんとか設置の許可をいただきました。太陽電池とH2 KIBOUは、最大発電量は同程度の発電能力を有していますが、年間を通しては発電量の80%あまりをH2 KIBOUで賄う事が予測され、RE100の実現に水素エネルギーは欠かせないという思いを強くしています。
製品名 | 業務用純水素型燃料電池5kWタイプ H2 KIBOU |
---|---|
担当 | パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社 スマートエネルギーシステム事業部 燃料電池技術部 |
*所属・内容等は取材当時のものです。