パナソニックの#はたらくってなんだろう
光沢面の複数欠陥を同時検出 オールインワンを実現した新照明システム

パナソニックグループの社内技術表彰の一つ、総合技術シンポジウム。銀賞は反射率の高い金属部品の外観検査で複数欠陥の同時検出を実現した新照明(キューブ照明)システムが選ばれました。従来検査機では反射率が高い光沢面は照明の位置が数ミリ変わるだけでハレーション*が起こり、表面の汚れや傷、打痕などの欠陥を確認しづらくなるなどカメラと光源、対象物の位置調整が非常に繊細でした。また、欠陥の種類に応じて光源や照射角度を変えた複数の検査機が必要で、費用対効果の観点から目視検査に頼らざるを得ない現場も多数存在しているのが実情でした。
今回、開発した新照明システムは、独自のカラーフィルタで照射光をRGBに着色して均一に照射し、反射光の色変化を読み取ることで表面の微細な角度値を算出。1回の撮影で光沢のある表面上の傾きと反射率を瞬時に算出し、汚れと打痕両方の自動検出に成功しました。開発メンバーに技術開発の転機、ブレイクスルーなどについて話を聞きました。
*ハレーション:光が強く当たりすぎて画面が白くぼやけたり濁ったりする現象。
プロフィール
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高橋 翔馬
パナソニック インダストリー株式会社 産業デバイス事業部 事業開発センター
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田中 泰資
パナソニック インダストリー株式会社 産業デバイス事業部 事業開発センター
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原口 一馬
パナソニック インダストリー株式会社 産業デバイス事業部 事業開発センター
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藤井 秋希良
パナソニック インダストリー株式会社 産業デバイス事業部 事業開発センター
目次
PROBLEM ハード、ソフト両面から外観検査の高性能化を追求
次世代外観検査機の開発プロジェクトが立ち上がり、チームは特に検査が難しい反射率の高い金属部品に狙いを定めて技術開発をスタートしました。そこで着目したのが新たな特殊照明として登場した立体角照明システム*でした。当初はこの照明技術の導入を試みましたが、複雑な光学設計の影響による検出角度や範囲の狭さ、カメラと光源、被写体の位置調整のシビアさ、欠陥ごとにカラーフィルタ交換が必要であるなどインラインの自動検査工程での安定稼働には課題があることが分かりました。チームはハード、ソフトの両面からこれらを解決し、「被写体面の角度を色で可視化する」という同照明システムの技術を応用して、インラインで安定した自動検査ができる新たな光学構成、キューブ照明システムの開発を目指しました。
*立体角照明システム:放射状に拡散しながら直進する通常光源からの照射と異なり、同照明は被写体面のどの点に対しても均一な光の照射が可能。反射率の高い金属面や光沢面などの微細な角度を可視化できる。
独自のカラーフィルタで被写体面の微細な角度を可視化
キューブ照明システムの基本原理、技術特徴を教えてください。
開発で着目したポイント、独自に開発した技術とは?

従来の立体角照明でも被写体面の角度や方向を定性的に可視化することはできていました。しかしながら、チームが目指していたのはもう一段高いレベル、角度を定量的に数値として算出できる技術でした。実現の手だてとして厳密な色変化を制御することにあると考え、独自技術として高精細なRGBドットで構成されたモザイクフィルタを開発しました。フィルタ内のRGBのドットの位置、比率、彩度に対応するように角度方向とその大きさをそれぞれ一意的に割り当てることで、色からの角度算出が実現できました。
検査時のイメージとしては、光源下に円形のモザイクフィルタを配置することで被写体面に縮小された円形のモザイクフィルタが無数の細かいドットとしてくまなく照射され、右に下がっていると赤色、左に上がっていると緑と青色の合わさった光が反射されます。被写体全ての面からこれらの無数の色が戻ってくるため、カメラで撮像されるのはこれらの角度に応じた色が付いた反射光になります。
角度によって変化する色の実例。着色によって被写体の角度の大きさ、方向を可視化できる。

モザイクフィルタのもう一つの特徴は、被写体の反射率も検出できる点です。例えば、指紋などの汚れがあれば反射率が低くなり、撮像ではその部分が黒っぽく映し出され差異を確認できます。キューブ照明システム1台のみで指紋と打痕の付いたコイン電池を検査したところ、ワンショット撮影で同時検出ができました。従来は欠陥の種別ごとに照明の種類、位置を変えて複数回の撮影が必要でしたので、コストパフォーマンスの高い外観検査システムを実現できたと考えられます。
MESSAGE & YELL
高橋 翔馬
キューブ照明システム開発の原点は2020年12月、私がある展示会で見つけた1台の立体角照明システムでした。新規事業として次世代外観検査機を開発するというミッションのもと、「きっとアイデアの種になる」とテーマリーダーの田中さんに購入を掛け合いました。しかし検証を重ねれば重ねるほど、インラインで導入するために解決すべきハードルが高くなっていく。トライアンドエラーの連続でした。
ブレイクスルーのヒントを与えてくれたのは、自分自身のキャリアでした。入社から14年間、七つほど所属部署が変わり、そのたびに新たな技術を吸収していきました。私は一つの技術を極めたプロフェッショナルとは言えないかもしれませんが、今はいささかの後悔もありません。幅広い分野の技術を身に付けられたおかげで、常識にしばられず多角的な発想から課題解決に結びつけられると分かったからです。
田中 泰資
私はプロジェクトのテーマリーダーという立場にあり、メンバーの自由な発想と挑戦を後押しする環境づくりを常に大切にしていました。高橋さんが新規性の高い照明技術を見つけてきたときも、原口さんがセオリーに反してレンズの向きを変えるという異例の光学設計を提案してきたときもそう。まずは信頼して任せてみる。彼らの挑戦心なくしてキューブ照明の開発は成し得なかったのではと思います。
今回のシンポジウムへのエントリーも高橋さんからの提案がきっかけでした。私たちが所属する新規事業推進部の本来の目的は新技術の開発ではなくビジネス事業の創出。当初はエントリーする予定はなかったのですが、開発過程で知財として特許申請できる技術を開発できたことで、「社内外から注目が集まれば事業化を加速できるはず」という高橋さんの熱い想いに後押しされました。常に前を向いている彼らを見ていると、逆に勇気づけられる。受賞を励みにして事業化をさらに加速させていきます。
原口 一馬
最初に直面した壁は、開発のベースとなった立体角照明システムの複雑な光学設計でした。複数の特殊な部材を必要とし構造自体も複雑であることが開発進行を妨げる要因の一つになっていました。私が常に考えるのは、たとえ技術が難解でも誰もが分かりやすくかみ砕きシンプルなモデルに置き換えること。技術をすぐに理解できる人が増えれば、その分開発も進みやすいからです。
今回の開発に関しても「平行光を着色して角度情報を得る」という特性のみを抽出して余計な部分はそぎ落とし、本質に迫っていきました。高価で特殊な部材は一つも必要とせず、市販のカメラと安価な凸レンズのみを使用したコストパフォーマンスに優れた試作機を完成できたことに意義を感じています。たとえ発想がシンプルだったり、セオリーから外れていたりしても、パナソニックには確かな専門技術で実証してくれる多くのプロフェッショナルたちがいます。心強い仲間のおかげで自由な発想が形になっていくのだと思います。
藤井 秋希良
学生の頃からソフトウエアを学んできましたが、入社3年目で初めてハードウエアとの連携を経験して視野が広がり、多くの知見を得られました。キューブ照明の稼働にあたっては自分自身も実際に試作機を何度もテストして、使用感を繰り返し確認しながら、「どうしたらもっとお客様が使いやすくなるか、そのためにソフトウエアをどのように改善すればいいか」が最大のテーマと考えていました。
こう考えるきっかけとなったのは検査工場で見た光景でした。ベルトコンベヤーのわずかな振動で傾く部品など、研究室にこもっているだけでは決して発見できないような生きた情報が刺激となり、開発のモチベーションにつながりました。傾きのオフセット機能や角度情報からの高さ演算という機能を開発して、技術者として大きな自信をつかみ取れました。人から教わる知識と自らが動いて得る知識、これら両輪をバランスよく回しながら、これからも人が中心のソフトウエア設計を進めていきます。
FUTURE
左から田中 泰資、高橋 翔馬、原口 一馬、藤井 秋希良
実用化の足掛かりとして、今春からコイン電池の不良品サンプルを使った検査精度の評価実験を計画しています。汚れや打痕を1回の撮像でいかに正確かつ高速に検出できるか。「キューブ照明システムの新規性や価値を社内外に広げていきたい」とリーダーの高橋さんは意気込みを語ります。同システムは無彩色のコイン電池などだけではなく、着色部材を無彩色に自動変換できる機能も備えており、銅素材や金メッキが施された接点金具などにも適用が可能です。開発成果で得られた独自技術、モザイクフィルタと光学設計は特許を出願済み。新たな切り口で外観検査装置の市場を切り拓いていきます。
受賞テーマ | 被写体面の傾きと反射率を同時に算出できる新しい画像検査機用照明システム |
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担当 | パナソニック インダストリー株式会社 産業デバイス事業部 事業開発センター |
*所属・内容等は取材当時(2023年2月)のものです。
被写体に対して均一にまっすぐの角度で照射できる光を平行光といいます。私たちが名付けて独自開発した「キューブ照明システム」はこの光の特性を応用して照射光を着色することで、反射光から被写体面の微細な傾きを色で可視化できます。分かりやすく説明すると、カラーフィルタを通してRGBに着色した平行光を左右と中央の3方向から照射するイメージです。傾きの方向に面している左斜め上からの照射は、青色の光だけが反射してまっすぐ照射方向に戻り、それ以外の2色は検出範囲外に抜けます。撮影すると左側が青く変化した被写体をモニター上で可視化でき、左側に傾きがあることが確認できます。
この着色された照射光を限りなく増やすことで、観察された色から角度の大きさ、方向がより高精度に可視化できるようになります。平行光は高反射物の被写体に対しても均一に照射できる特性を持っているため、面角度に応じて変化する反射光の色を的確に捉えられ、傷や打痕など角度に応じて色変化した撮像結果を得ることができます。