パナソニックの#はたらくってなんだろう IoTデータが高齢者のセルフケア能力を引き出す〜デジタル・ケアマネジメント・サービスの開発〜

笑顔の高齢者

「すべての人に健康と福祉を」。SDGsの3番目に掲げられているこの目標は、途上国だけのものではありません。超高齢社会の日本においては、高齢者の健康寿命(介護を受けたり寝たきりになったりせず日常生活を送れる期間)を延ばしていくことが求められています。IoTとデータ分析によって高齢者の健康寿命を延ばす...そんなサービスの開発に取り組んでいるスマートエイジングプロジェクトの担当者にインタビューしました。

2021年04月

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目次

  1. 超高齢社会を生きるわたしたちが直面する課題
  2. デジタル・ケアマネジメントの活用事例
  3. 実証を通してわかったこと
  4. 高齢者の「くらしアップデート」実現 = SDGsの達成

超高齢社会を生きるわたしたちが直面する課題

説明する木田祐子さん

パナソニック株式会社 テクノロジー本部 事業開発室 スマートエイジングプロジェクト
木田祐子

在宅介護の現状と課題について教えてください。

今の時代、中高年の世代にとっては、実家で暮らす親の介護はいちばんの課題であり、心配事ではないでしょうか。現在、日本では、全国約5300万世帯のうち約1400万世帯、つまり、4軒に1軒は高齢者だけが暮らす世帯となっています。このような世帯の約350万人の高齢者が、介護保険サービスを利用しながら生活しています。
プロのサービスが入っているから安心、と思われるかもしれませんが、実は、時間カバー率は意外と低いのです。たとえば、1週間168時間の内、デイサービス週3回とヘルパー週2回を利用した場合でもその合計17時間は、たった10%にすぎず、90%の時間は、プロのサポートはありません。この90%を高齢者本人がどう過ごすかで、本人の体調や家族の介護負担が変わってくるのですが、自分が今日、どんな状態で、何に気を付けて過ごしたらいいのかを分かっている人はほとんどいません。その時、助言をしてくれる介護のコンシェルジュともいうべき人が、「ケアマネージャー」という専門家です。「デジタル・ケアマネジメント」とは、デジタル技術を使って、ケアマネージャーさんの仕事を支えようという取り組みです。

ケアマネージャーさんをどうやって支えるのでしょう?

ケアマネージャーの仕事は、高齢者本人や家族から困っていることを聞き、分析し、有効な解決策をケアプランとして提案することですが、情報収集は"聞き取り"というアナログな方法が通常です。これは言い換えれば、もし聞き取った内容が間違っていれば、間違ったケアプランを提示してしまうかもしれない、ということです。「よく眠れていますか?」と聞かれて高齢者本人が「はい」と答えても、実は睡眠不足かもしれません。認知症を持たれている方もいるなかで、"聞き取り"によって生活の実態を正しく知るのは、意外と難しいことなんです。

女性が高齢者家族に説明をする様子

私たちの提案は、IoT機器を使って見えない24時間の暮らしを「見える化」できれば、正しい情報に基づいた正しいサポートができる、というものです。ケアマネージャーも助かるけど、高齢者ご本人やご家族にとって良い結果につながるはず、と考えています。これを、従来のアナログ手法に対比して、「デジタル・ケアマネジメント」と名付けました。一般用語にすべく、世の中に認知を広げている最中です。テクノロジーで在宅介護の常識を変えるという挑戦ですね。

デジタル・ケアマネジメントの活用事例

宮崎県都城市で実証をされているそうですね。

はい。2019年10月から3カ月間、自宅に住む4名の要介護高齢者に対して実証を行い、効果を検証しました。パナソニックが主体で、自治体、ケアマネ協会、そこに医師会も加わった4者の共同プロジェクトで、国内初の取り組みです。具体的には、ご自宅にIoT機器を設置させてもらい、生活行動をモニタリングして、その結果をケアマネージャーと一緒に分析を深め、ケアに反映する、という内容です。

家の間取り図とセンサーを設置している図

家の各所にIoT機器(開閉センサ―、人感センサ―など)を設置し、高齢者の日々の行動をグラフに「見える化」していく。

大事な点は、IoT機器から収集したデータの"意味づけ"にあります。たとえば、トイレ内に取り付けた人感センサーの反応履歴から「1日に何回排泄したか」を数値化していきます。トイレ内での人感反応だけですから、とてもおおざっぱな情報ですが、このレベルでも、わかることがたくさんありました。毎日の変化を追うことで、「昨日は、便秘や下痢のトラブルがあったのかな?」「最近、脱水傾向になっているのでは?」という発見につながります。

解析した情報を分析したグラフ

センサーの反応から、「1日に何回排泄したか」など、「意味づけ」をしていく。

解析した情報を分析したグラフ

左から、血圧・活動量、トイレ回数、睡眠時間の月間グラフ。現時点は項目別データの推移を見ているだけだが、データを蓄積して項目間の相関分析をすることで、データの価値が出てくるはず、と木田は語る。

また、今回、有識者から助言をいただきながら「生活行動センシングの考え方Ver1.0」を策定しました。身体へのIn=「飲食」とOut=「排泄」を縦軸に、「活動」と「休息」を横軸に、そして影響力が大きい「服薬」と「生活リズム」を加えた6項目を、非接触デバイスでセンシングする、また精度は、最初は粗くても順次アップデートしていくことで価値を高める、という考え方です。今後のIoT機器の選定や開発の指針になる成果と考えています。

生活行動センシングの図解

「生活行動センシング」は、非接触でセンシングすべき6つの生活行動を設定している。「生体センシング」や「空間センシング」を加えてゆくことで、ケアマネジメントの精度を上げていくことができるとのこと。

高齢者ご本人やご家族にとっての価値はどんなところにありますか?

具体例をお話ししましょう。Aさんは84歳で要介護1、脳梗塞と認知症を患われておられ、大きな課題は、排便のコントロールができずご家族の負担が大きい事でした。便秘があるとイライラし、介護されるご家族にストレスが向く、逆に、便秘解消の薬を飲むと今度は排便の失敗でトイレを汚し、ご家族の負担が増す、という悪循環でした。課題解決にむけて、①水分摂取を増やし、②運動を習慣化し、③排泄リズムを整えることをケアプランとして提示し、IoTモニタリングとケアマネージャーの助言により、実践を繰り返しました。
我々のWebソフトで、日々のトイレ回数を示し、ケアマネージャーが毎朝、前日のデータを確認。排泄トラブルが起こっていると想定される15回を超えた場合は、ご家族へ電話で状況を確認しながら、介護のねぎらいと合わせて、都度、①水分摂取と②運動の大切さを伝え促しをしたところ、翌月には、改善がみられるように。さらに、ご本人が改善を実感され始めたことで、水分摂取や運動もさらに増え、好循環のサイクルに入り、排泄トラブルの回数は、みるみる間に減って、2カ月後には排便リズムが安定し、排泄トラブルもゼロになりました。

Aさんがトイレに入る回数を解析したグラフ

Aさんがトイレに入る回数は11月には15回を超える日が多かったが、12月には減ってきて、1月にはなくなっていることがわかる。

劇的に改善されたのですね!

はい、驚くスピードで改善が進みました。排泄トラブルという課題が解消できたこと以上に、お2人の関係が良くなった。ご本人からご家族にむけて「ありがとう」という言葉が聞かれるようになったというエピソードは、本当に嬉しいことでした。当初は、在宅介護は限界ではないか、もうすぐ施設に入るだろうと想定されていましたが、この改善から、これからもご夫婦での暮らしを継続されるという気持ちになられたとのことで、これは、本当に画期的なことです。たかがトイレの問題だけで施設なの?と思われるかもしれませんが、介護施設入所のきっかけの多くは、実はこの排泄トラブルなんです。介護施設に入ると、介護にかかる公的な負担はさらに膨らむことになります。在宅での暮らしを快適に続けられることは、本人にとっても社会にとっても良い事なんです。
今回、他の3事例を含め、全てで改善が確認できました。ケアマネ協会の代表、医師会の先生、行政の担当課長など関係者は、想定以上の成果に、とても驚いておられます。最初は「機械入れて何が変わるんだ」と疑問を持っていた方も、「IoTってすごいね」に変わって、一気に期待が高まっています。

実証を通してわかったこと

今回の経験から、何を学べましたか?

大事なことをいろいろ学んだと思っています。まずは、モノ、つまり、IoT機器の性能が第一優先ではなく、解決策こそが大事だ、ということです。今回用いたIoT機器では、トイレに人が入ったという反応だけで、実際に排尿があったのかどうかはわからない、しかしながら、貴重な情報となり、生活課題を解決することに役立ちました。我々はメーカーですので、どうしてもプロダクトを中心に考えてしまいがちですが、現場にとっては、解決できるかどうかが勝負。でも、狙いさえ外さなければ高精度な機器でなくても結果を導けることを経験しました。今後、精度が高くなれば、さらに価値があがり、アップデートへの期待に応えられます。

プロダクトの性能でなければ、何が強みなのでしょうか?

先には触れませんでしたが、我々が提供する機能はもうひとつあります。「ケアプラン作成」の機能です。これは、厚生労働省の老健事業の1つとして、医療介護の専門家のノウハウが体系化された"ケアプラン集"がまとめられており、それをベースに当社独自でソフトウェア開発をした機能です。シンプルな操作で、その人にあったケアプランを提示することができます。現場に不可欠なこのケアプランを核に、それを有効に機能させるためのIoT機器とデータ分析、という組み合わせが他社にない強みだと考えています。

自立支援、重度化防止ケアプランを導出するロジック図

厚生労働省 老健事業「適切なケアマネジメント手法の策定」の報告書に基づきつくられたこのロジックは、パナソニックとして知財を獲得しているとのこと。

高齢者の「くらしアップデート」実現 = SDGsの達成

「セルフケアを、高齢者のライフスタイルに」という言葉に込めた思いとは?

この言葉は、都城市の現場の皆さんと会話するなかで生まれたスローガンなんです。昨年度の事例はいずれも、高齢者が自分で自身の状態を知り、改善の方法を助言されることで、ご自身の力で改善を達成された、つまり、追加の介護サービスを増やしたわけではなく、ご自身の力=「セルフケア」で達成できたのです。高齢者は生活を良くする潜在能力をお持ちで、それを「デジタル・ケアマネジメント」で少しサポートすれば、当たり前にその力を発揮できる、そのような新たな常識をつくりたい。これこそ、人材不足と社会保障負担が課題の日本がめざすべき姿だろう、と大いに共感が得られました。
このスローガンは、都城市実証のインタビュー動画のエンディングで、全員に唱和してもらいました(このページの最後に動画をご紹介していますのでぜひご覧ください)。パナソニックのデジタル技術で、高齢者ご自身による"セルフケア"というライフスタイルを支えることが、この事業のめざす姿です。この言葉をスローガンに、お客さまと一緒につくり上げていきたいと思います。

この取り組みは、SDGsの「誰ひとり置き去りにしない」という理念をまさに体現していますね。

そうかもしれません。でも、SDGsが企業に期待しているのは、社会貢献活動でなく事業として持続させていく事ですよね?その意味では、まだまだです。私はこの取り組みを事業化し、軌道に乗せたい。都城市での実証を起点に、全国、全世界の高齢者の暮らしに貢献できるよう、我々に関心を持っていただける社内外の方々とタッグを組み、信念をもって進めていきたいと思います。

笑顔の木田さん

〈関連リンク〉

国内初、在宅高齢者のケアマネジメントの質向上を狙い、宮崎県都城市とIoTを活用した「デジタル・ケアマネジメント」の効果検証を実施

[動画]在宅高齢者向け「デジタル・ケアマネジメント」の実践事例~宮崎県都城市[Panasonic]

*所属・内容等は取材当時のものです。
*事業会社制への移行に伴い、2022年4月よりこちらの仕事はパナソニック ホールディングス株式会社へ移管されます。
*事業会社制に関する詳細はこちらをご覧ください。

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