お客さまのニーズを捉え、
他社が真似のできないPCを開発したい。
設計開発 寺平 拓真
「球体のガラスボールのなかに、赤紫色に光るプラズマがクラゲのようにふわふわと浮いているんです。手をガラスに当てると、そのプラズマがこっちに寄って来るんですよ」。寺平拓真は、中学2年の時に高専の出張展示で見たプラズマボールの美しさと、その時の感動を興奮気味に語った。プラズマという不思議な現象が、彼の心を魅了した。そして、高専への進学を決意させた。高専では、電気電子工学科で電子回路などを学びながらプラズマの基礎研究に熱心に取り組んだ。専攻科に進んでもその研究を続けた。さらに、プラズマを実際に社会に役立てる研究をするために大学院に進学。そこでは、プラズマを使ったがん治療の研究に取り組んだ。「プラズマを直接人体に当てると皮膚が焼けてしまうので、プラズマがいつ起きてもおかしくない高エネルギーの場をつくることで、がん細胞が自ら死を選ぶ。そんな研究をしていました」。
彼がパナソニックと出会ったのは偶然だった。同じ研究室の同級生がパナソニックのセミナーに参加する時に誘ってくれたのだ。「航空会社と自動車会社の2社からお声がけいただいており、どうするか迷っていた時期でした。その悩みをパナソニックの社員の方に相談したところ、その方は自身には何のメリットもないのに『私が同じ立場だったら...』ときちんとアドバイスしてくれたんです。その人にも、その人が働いているパナソニックにも強く惹かれました」。そして、彼はパナソニックの選考を受け、突破した。
入社後、配属されたのは、レッツノートやタフブックなどモバイルPCを開発する部署。そこに、レッツノートの設計開発として加わった。電源回路設計の副担当として、一連の評価業務や設計業務を先輩と一緒に行い、フローの回し方を学んだ。2年目には、アメリカ出張を経験。電源回路設計として、レッツノートと共通点の多いタフブックを納入しているさまざまな州の消防署や警察署を訪問後、現地の営業担当者らとお客さまの会社を回って不具合の状況を確認し、お困りごとや課題など率直な意見を聞いた。「設計業務のキャリアがまだ1年だったため、つたない英語と知識不足を痛感させられました。その経験が、今の設計意欲や、やりがいにつながっています。本当に貴重な体験になりました」。
現在は、レッツノートシリーズの電源回路設計の主担当として次期製品の開発に取り組んでいる。電源回路設計には、クリアしなければいけない2つの命題がある。PC各部に安定的に電力を供給し続けること。そして、必要な時のみ供給し電力をセーブすること。この相反する命題を両立させる最適解を見つけることが設計者の最大のミッションだ。「新機種開発では、初期段階では動作すら不安定な新機能を実装するため、電源が落ちたり、電力を異常に消費したり未知の障害が頻発します。その際、どう解決するかが設計の腕の見せ所です。ソフトウェア設計など他部門への協力を仰ぎ、みんなで問題解決につながる糸口をあれこれと考え、いかに効率よく答えにたどり着けるかを日々たのしんでいます。そして、解決できた時の達成感は格別です。また、テレビドラマなどで、ニュース記者や新幹線のビジネスパーソンがモバイルPCを使用するシーンに、自分が関わったレッツノートを見かけると、ちょっと嬉しい気分になりますね」。そう語る彼の表情から、日々の仕事の充実ぶりが伝わってきた。
現在入社4年目。ずっとレッツノートの電源回路設計に携わってきた彼に、この仕事への想いを尋ねた。「私がいちばん大切にしていることは、お客さま視点で設計することです。多くのビジネスパーソンに受け入れられている高い信頼性を担保するために、出荷条件や昔から引き継いできたノウハウなど評価項目が沢山あり、それをクリアするだけで大変です。でも、そのうえで、『使用中に壊れないか』、『電源が落ちて大切なデータが消えてしまわないか』などお客さまの気持ちをいちばんに考えて設計しようと思っています。また、多くのメーカーがPCを出している昨今、パナソニックらしい強みは何なのかを再定義する必要があると考えています。お客さまが本当に欲しいPCは何か。企画だけでなく、設計者自身、開発に関わる全員で、適宜、見つめ直しながら設計開発に取り組んでいきたいと思っています。そして、いつか他社が真似のできない技術で、お客さまのニーズに的確に応えたPCを世に出すことが私の夢です」と微笑んだ。
パナソニック社員の人柄に触れて入社を決めた寺平。取材の最後に、こんなエピソードを披露してくれた。「2年目の研修がありまして、そこで上司から手紙をいただいたんですよ。『チャレンジ精神とコミュニケーション能力が人一倍たけている』とか、『技術力もちょっとずつ付いてきているから、このまま伸ばせば次代のリーダーになれるかもしれない』といった内容が直筆で書かれていまして。普段の業務では言われたことがない内容ばかりで、とても嬉しかったです」。