画像処理の研究で世界を舞台に活躍し、
世の中に貢献したい。
研究開発 安木 俊介
とにかく目立ちたがり屋。それが、子どもの頃の安木俊介だった。人がやっていないことをやりたくて、人が知らないことを知りたかった。学校の勉強でも、誰かが分からないって言った問題は、何が何でも解こうとした。中学生になって、環境問題やエネルギー問題に興味を持つようになったのも、この大きな問題を自分が何とかできたらおもしろいと思ったから。それはやがて「自分の力で世の中のためになるようなことをしたい」という想いへと育っていった。
大学では物理を学び、「光」に関する研究をした。自然科学に興味を持ったのは、自然界のようなスケールの大きいものを相手にすることが、かっこよく思えたからだ。そして研究室に入る時は、みんながあまりやっていなかった「画像処理」が研究テーマとなった。「最初は画像処理なんてやったことがなかったので不安でした。でも同じ『光』を扱うのでも、物理だけではできないことが、計算と融合することでできるようになるというのが、おもしろい世界だなって」。
就職活動においては、光の研究と画像処理を合わせて、何かができるところ、というのが軸になった。そして、自分の研究を世の中の役に立てられる会社ということを絶対条件として探した。「それで見つけたのがパナソニックでした。部署もここしかないって思って。逆1本釣りみたいな感じで入社したんです」。
パナソニックで最初に取り組んだのは、カメラで撮った写真から距離を割り出す技術の開発だった。「これはオートフォーカス機能の一部に入っている技術で、焦点を合わせるスピードを速くすることに貢献しています。画像処理と信号処理が融合した、従来のカメラでは不可能だった機能を実現するコンピュテーショナル・フォトグラフィーと呼ばれる分野の技術です。当時はまだこれを商品化した例はなく、本当に挑戦でした」。どうやったら商品にできるのか。誰もやったことがないことだからノウハウもなく、すべて1から構築していくしかなかった。「数え切れないほど実験して、アイディアも出して。それでやっと。自分が研究してきた技術をはじめて商品に載せることができました」。
しかし湧き上がってくる気持ちは、嬉しさよりも恐怖だった。「前例のない技術ですから、何が起こるか分からない。何度検証しても、不具合を起こさないか怖さがありました」。一緒に開発した人からの評判は良かった。クレームなども聞かなかった。しかし、心の隅にはいつも不安があった。
そんな彼を変えたのが、機械学習を得意とするシンガポールの研究施設への出向だった。「機械学習を学ぶために行ったのですが、英語が苦手だったので、最初はコミュニケーションが大変でした。だからまず相手の国の話を聞くことから始めて。そんなことをしながら、少しずつ」。話せるようになると、会話は刺激的だった。世界の最先端を行く研究者の名前や技術が、常に飛び交っていた。そして分かってきた。自分が戦うべき場所は世界であること。そこではものすごいスピードで研究が進んでいることを。「自分たちが世界に追いつくには、怖がっている時間なんてない。研究を商品に入れてもらえるならどんどん入れてもらおう。そう考えるようになったんです。そこでようやく自分の研究を商品に載せることができたことを嬉しいと思えるようになりました」。
1年半の出向を終えた彼は、現在、機械学習による画像認識技術の開発に取り組んでいる。「応用すればセキュリティやエンターテインメントなど、さまざまな分野で貢献できると思います。特に、メーカーが機械学習をやることってとても意義があると思っているんです。自分たちが持っているものと機械学習を組み合わせて、新しい価値を提供できる訳ですから」。
この分野の研究は、自分たちの先を行く企業や研究者がまだたくさんいる。「でも、いいアイディアひとつで、もっと大きな貢献ができる可能性がある分野でもあります。世界を舞台に活躍できるチャンスもある。アイディアを考えるのは本当にたのしいですね。自分のアイディアが何か社会の役に立てたなら、本当に最高です」。