経理の目で
見えない課題を発見し、
経営をサポートしたい。
経理 増田 莉子
フィボナッチ数列。ひまわりの種や松ぼっくりの松かさの並び方に見られる不思議な数列のことを知ったことが、きっかけだった。人が考えたものだと思っていた数学が、自然のなかから生み出されていることに興味を持った。勉強を重ねるうちに、数学はこの世界を理解するためにも使えることを知って、この世の中を数字で見てみたら何が分かるのか、を知りたいと思うようになった。
大学で商学部を選んだのも、ここなら数字で社会を見ることを学問として学べると思ったから。はじめはマーケティングを学び、ゼミでは管理会計を学んだ。「管理会計というのは、企業をマネジメントするための会計で、売上や利益、投資した費用の推移などから現状を分析、今後の予測などに役立てることができます。つまりさまざまな数値から経営を考える学問。これが、すごくおもしろくて。将来は、この知識を活かして、経営に関わる仕事がしたい。そう思って、就職活動がはじまるとそれができる仕事を探しました」。
その答えは、経理だった。経理という仕事は幅が広く、一般的にイメージされているデスクワーク中心の経理もあれば、さまざまな数値を分析し、経営者の意思決定をサポートする経理もある。「この後者の経理をやるのであれば、やっぱりモノづくりをしている企業がいいなと。そこには工場があり、設備投資をしたり、材料を購入したり消費したりして製品をつくっている。だから管理会計がいちばん活かせる分野だと思ったんです」。なかでもインターンに参加したパナソニックでは、彼女がやりたいと思っていた通りの経理をやっていた。興味を持って調べてみると、創業者の「企業は社会の公器」という言葉を見つけた。企業は利益を追求するだけでなく、生活の向上や世の中の発展に貢献しなければならない。その考え方が胸に響いた。そして、こここそが「自分の働きたい会社」だと思った。
「入社すると、自動車関連部門の経理に配属されました。正直、自動車は馴染みのない分野でしたが、自動運転やコックピットシステムなど、これからますます進化していく分野ですから、逆にとてもワクワクしましたね」。はじめは資金管理を担当し、資金調達や運用など通して、資金の流れを学んだ。それらを一通り覚えると、次は材料会計を任された。
「材料会計というのは、担当する工場において1カ月間でどのくらいの材料が使われ、どのくらいの人件費がかかり、在庫がどのくらいあるのか。そういったものを管理するのが仕事です」。先輩に教えていただきながら1年。何とか仕事を覚えてきた頃、担当の工場に行かせてもらえることになった。「コロナの影響で、ずっと行くことができなくて。工場の方とのやりとりは、メールかオンライン会議。そのなかで私は、ある程度分かったつもりになっていたんです。でも違いました。工場を案内していただいたのですが、現場の方々の熱量がものすごくて。一つひとつの製品をみんなが心を込めてつくっている。それが伝わってきて、すごく感動したんです。自分の目で見ないと分からないことばかりだなって。たとえばひとつの製品をつくるのでも、そこにはいくつものラインがあるのですが、それぞれでつくっているということは分かっていても、その間でどんな連携が行われているのかが全然分かっていませんでした。現場を知ることの重要性を改めて教えていただきました」。
それから、これまで無機質だった数字に体温を感じるようになった。数字の外側にあるものが、少しずつ見えるようになってきた。「いつもと同じように見えても、今月この製品にこれだけ費用がかかっているのはおかしいって気付いたり。異常値が出た時だって、数字からある程度原因を想定して仕事を進められるようになったんです」。
現在、彼女はスピーカーやアンプといった車載音響機器を主力とするビジネスユニットの国内収支管理を担当している。年間の販売の流れや利益の動き、それらを計画値と比べたりしながら、それぞれの過程における課題を見える化し、収支を良くするために改善策を担当部門と一緒に考えている。「事業部の収支改善は、経理だけでは実現しません。各部門の方と力を合わせながら一つひとつ改善していくんです。大変ですが、それがより良い経営に直結するかと思うと、絶対に手は抜けないですし、とてもやりがいを感じますね」。今でもまだまだ学ぶことは多い。まずは、もっと知識と経験を積み重ね、他部門の人が抱えるちょっとした課題や困りごとを、気軽に相談してもらえる経理社員になることが、近い将来の目標だ。
そしてもうひとつ。彼女には、思い描いている未来がある。「結婚などのライフイベントの後も働き続けたいんです。当社の経理には、結婚しても働いてる女性の方や育休や産休から復帰された方が本当に多くいらっしゃって。そんな先輩を見本にさせていただきながら、この先も自分らしく働いていきたいですね」。