eコマース時代の物流に、
「受け取り用冷凍・冷蔵ロッカー」という
新たな日常をつくりたい。
設計開発 天野 直隆
「今、物流業界は試練の時を迎えています。eコマース市場の拡大に加え、新型コロナウィルスによる巣ごもり需要が拍車をかけ物流需要は右肩上がり。活況の反面、ドライバーなどの人手不足、長時間労働が深刻化しているのです」。物流業界が抱える課題を訴えるのは、天野直隆。物流機器の設計開発を担当している。「私たちの製品で、物流業界で働く人たちの負荷を減らしたい。くらしも便利にしたい」。
現在、天野が取り組んでいるのは「受け取り用冷凍・冷蔵ロッカー」だ。これは駅などに設置され、消費者がネットで注文した冷蔵・冷凍商品を保管。仕事帰りなど好きな時間に受け取れる、そんな新しいサービスを担う製品だ。冷蔵・冷凍商品は置き配もできず、再配達の手間を削減するものと注目されている。まだ始まったばかりのプロジェクトで、天野は設計だけでなく全体の推進をまかされている。お客さまとの対話から課題を掘り起こし、要件整理してプロトタイプを製作。テストを重ね、サイズや設置方法、ネットワーク連携の強化など機能をアップデート。課題解決に沿った製品へ進化させていく。さらに生産・出荷に立ちあったり、設置やアフターサービスまでフォローする。「お客さまの悩みを直接聞き、自分が開発した製品で解決していくことで喜ぶ顔が見える。ものをつくりだす設計者として最大の魅力だと思います」。
天野がモノづくりのたのしさに目覚めたのは、小学生の頃だ。ブロックで家や乗り物を組み立てたり、割り箸で工作したり、時が経つのを忘れていつも何かをつくっていた。大学はモノづくりに役立ちそうな機械工学を迷わず選んだ。力学や熱流体などを学びつつ、近くにあったJAXAの研究所で研修生として炭素繊維強化プラスチックのリサイクルも研究。「モノづくりで『よりよい社会、新たな日常』を実現したい」。そんな想いが、この時、芽生えたという。
就職活動はメーカーを中心にしたが、実は当時、経営状態が思わしくなかったパナソニックは候補から外していた。しかし何気なく参加したパナソニックの学内セミナーや合同説明会で、印象が変わった。困難な状況下でも、テスラとの協業などチャレンジを続けている。技術が幅広い分野にわたり、さまざまな選択肢がある。そして決め手は出会った先輩社員がたのしそうに自身の仕事を語っていたことだった。「人生をたのしく」を軸に就職活動をしていた天野にとって、これ以上の共感はなかった。
入社は配属を選ばないカタチをとった。公募異動制度もあるので、モノづくりができれば部署にはこだわらなかった。そして今の部署に配属され、そこがなんと就職説明会で話をしてくれた先輩社員の所属先だったのである。期待通り、フラットで和気あいあいとした雰囲気。天野は業務用冷蔵庫などを担当し、3カ月後には新製品の開発をまかされた。早々にチャレンジさせてくれることも嬉しかった。そして4年目、物流機器の担当になり「受け取り用冷凍・冷蔵ロッカー」の開発をスタートさせた。もちろん、たのしいことばかりではなかった。若くして仕事をまかされ意気込んでいたが、コスト見込みが合わなかったり、試験でNGが出たり、そのトラブルの火消しもできず落ち込んだという。乗り越えられたのは、周りのフォロー。「頼りになる先輩たちに少しでも追いつこうと必死にやってきたことが、成長につながっていると思います」。
もうひとつ自身を成長させてくれたエピソードがある。中国の生産拠点と「受け取り用冷凍・冷蔵ロッカー」の開発を推進した時のことだ。中国とは頻繁にコミュニケーションを取っていたが、事あるごとに意見が衝突。その後、中国へ単身出張が決まり、憂鬱な気持ちで向かった。だが驚いた。工場に到着するや熱烈歓迎。食事会では立場の隔てなく、酒をかわしながらお互いの課題や将来を語りあったという。無事に生産ラインが動き出し、帰国する時も総出で見送ってくれ、晴れ晴れした気分で帰国の途についたという。後日、異例の対応だったと知った。「意見がぶつかっても、真摯に向きあい、尊重しあえば分かりあえる。信頼関係の大切さを、これほど感じたことはありませんでした」。
国内外の先輩や仲間たちと一緒に最適なソリューションを提供し、物流業界やくらしをよい方向に変えていきたい。天野の想いは揺るぎない。単に「ものをつくる集団」ではなく、「課題を解決する集団」へ。現在「受け取り用冷凍・冷蔵ロッカー」は、お客さまの声からマンションへの展開も動き出している。天野がめざす『よりよい社会、新たな日常』が、少しずつカタチになり始めている。