パナソニックの人 森岡 元希

仕事場と森岡 元希さん

未知の領域を解き明かし、
レーザの可能性を拓きたい。

設計開発 森岡 元希

誰も知らないことを知りたい。いつからそんなことを考えるようになったのかハッキリと思い出せないけれど、きっかけのひとつは高校の物理の授業だった。日常で普通に起きているいろいろな現象。それがどうして起きているのかを、ちゃんと説明できることがおもしろかった。そこには、世の中のしくみを解き明かしていくようなたのしさがあった。

大学の志望を決めたのも、きっかけは高校の物理の授業だった。「シンクロトロンというのがあって、加速させた電子を物質にぶつけることで、他の物質へと生まれ変わらせることができるのですが、先生から習った時にすごくワクワクしたんです。自分にも、この世に存在しない物質がつくれるかもしれないって」。そして迷うことなく、シンクロトロンの研究室がある大学に行くことに決めた。

笑顔で語る森岡 元希さん

しかし、思いがけないことが起こった。入学する少し前に教授が退任し、研究室がなくなってしまったのだ。仕方なしに彼は、他に興味のあった電気回路をまずは学ぶことにした。そして数年後、レーザの研究室を選んだ。「実はレーザよりも教授に興味があって。おもしろいというか、ぶっ飛んでいる方だったので、ここなら他にないことができそうだって」。しかし始めてみると、レーザを扱うことの難しさに閉口した。「私はチタンサファイアレーザの高効率化を研究していたのですが、すごく不安定で。昨日できたことが、今日は再現できないなんてことはザラ。本当に大変でした」。

時にうんざりしながら、それでも彼はレーザの研究を続けた。そしてレーザのつくり方が分かってくると、次はこれを世の中にどう役立てるのかを知りたいと思うようになった。就職活動では、そういうことができるレーザ関連や医療器具の企業を回った。しかしパナソニックが、レーザ事業を伸ばしていこうとしていることを知った時に、「ここだ」と思った。事業規模が大きい方が研究開発への投資も多く、他ではできないことができるかもしれないと考えたからだった。

機械を操縦する森岡 元希さん

配属されたのは、ファクトリー・オートメーションや溶接機などを取り扱う部門。そこで、リモートレーザ溶接/切断ロボットシステム「LAPRISS」の開発に携わることになった。「最先端の技術である『レーザ加工』、つまり金属にレーザ光を照射し溶かして金属同士を接合する『溶接』や、金属板に集光したレーザ光を照射して焼き切る『切断』ができるのが『LAPRISS』。これに使われているダイレクトダイオードレーザの要素技術の開発をしています。なかでもレーザ発振器の光性能評価、信頼性評価、光学設計、装置メンテナンス性向上への取り組み、量産設備の立ち上げなどが私の担当です」。

独自の「波長合成技術」により、かつてない高品質と高出力を両立させたこのレーザは、加工に対して極めて高いポテンシャルを発揮する。「溶接跡がきれいで、汚れもあまり出ないからすごくクリーンです。しかも早い。さらに波長の自由度が高いため、将来的にはこれまでにない物質の切断や溶接が可能になると思います。現在、さらなる高速化や複雑な加工が求められる工場において、生産性の向上に欠かせない技術として期待されています」。しかしレーザ加工は、まだ未知の領域も多い技術だ。「不具合が起こった時、その原因が不明なことが多いんです。仮説を立てて、検証する。それを、うまくいくまで何度も繰り返すんです。対策できるまでに何カ月も。あるいはそれ以上かかることもあります」。

対話する森岡 元希さん

レーザの研究は、思い通りにいかないことがほとんどだ。その不安定さに、何でこんなやっかいな研究を選んでしまったのかと思うこともある。それでも彼は挑むことをやめない。「レーザにはすごく可能性があります。安定させることができれば、世界を変える力だってあるんです。工場の生産性を10倍に上げることも夢ではないし、いろんな物質の切断・溶接が可能になれば、これまで想像もできなかった製品が生み出せるようになるでしょう。そんな研究に最前線で携われているのは、やりがいを感じます。それに、誰も知らなかったことを解き明かしていくのは、最高にたのしい。だから大変半分、たのしい半分。いや、やっぱり大変なことの方が多いかな(笑)」。

パナソニックの人一覧へ