飛行機という空間の
新しい体験をつくりたい。
設計開発 仲野 晴香
家のなかは、いつも手づくりのもので溢れていた。祖父はいろいろな家具をつくってくれたし、父は遊び道具をつくってくれた。兄や弟とお店屋さんごっこをする時は、まず紙で屋台をつくるところから始まった。ものをつくること。それは仲野晴香にとってとても自然で、普通のことであったし、それを仕事にすることは、迷うこともなく当たり前のことであった。
だから、大学では機械工学科を選んだ。就職活動の時は電機メーカーのほとんどの説明会に行った。製品の外観をつくれる仕事ができたらたのしいだろうな。ぼんやりと描いていたイメージは、就職活動でさまざまな会社の仕事を知るうちに、次第にカタチになっていった。「そうだ、飛行機に関わるものがいい」。祖父が航空会社に勤めていたせいか、彼女にとって飛行機は身近なものであり、何より好きであった。航空会社などもまわりながら、それでも最終的にパナソニックを選んだのは、飛行機のなかの製品をつくれる会社だったこと。配属されたあとも異動ができる制度(eチャレンジ・eアピール)があり、自由な感じがしたこと。育児休暇などもしっかり取れると聞いたこと。そして働いている人の雰囲気がいちばん自分に合うと感じたからだった。
入社して配属されたのは、アビオニクス(航空機内向けエンターテインメント機器)の機構設計。映画や音楽、ゲームなど、長時間のフライトを快適に過ごすには、今や欠かせない設備のパナソニックの世界シェアは、約8割を占める。「それは長年の信頼の証であると思います。飛行機のなかで使うものですから、壊れにくいことはもちろん、万が一のことは絶対に許されません。とにかく品質の高さが求められる製品です」。開発中の機種の評価試験や製品の内製化設計の担当を経て、2年目の途中から次世代のアビオニクスの開発に携わっている。
「私の担当は、機内で使用するコントローラーにつながるケーブルとケーブルを巻き取るためのコードリール部品の設計です」。初めて一から開発に関わる機種。すべてが新しく開発されるものであるため、評価試験中に多くの問題が発生する。どうすれば解決できるのか。その検討を続ける日々だ。「過去に開発されていないものですから、正解が誰にも分からない。すべてが手探りです。とにかく膨大なパターンを試さなくてはいけないのが大変ですね」。しかし同時に、まだ駆け出しの自分にこんなことを任せてくれることを嬉しいと思う。
「製品の信頼性基準を満たすために、何度も何度も試験をして。これが製品になって納品できた時は、たぶん、自分の子どもが成人したみたいな気持ちになると思いますね」。そう笑う彼女は、ずっと先のことも見据えている。「飛行機のなかの空間にはまだまだ可能性があると思います。もっと快適に過ごしていただくための技術は、アビオニクスだけでなく、パナソニックにはいろいろありますから。他の部署の技術と組み合わせることで、魅力的な空間を提案できると思います。そんなことに私も携わっていけたらいいですね」。まだ見ぬ明日の空へ。彼女の夢は、羽ばたき始めたばかりだ。