パナソニックの#はたらくってなんだろう
スティック本体からダストボックスを分離 軽量操作とゴミ捨て頻度低減の両立に成功

掃除機のダストボックスにたまったゴミの廃棄やフィルターの手入れをおっくうに思う方も少なくないはず。今回新開発したスティック掃除機は、スティック本体からダストボックスを切り離した業界初のセパレート型です。本体を充電台にセットするだけで、集めたゴミが充電台内の紙パックに毎回自動で移送できる新技術を開発。紙パックは約1カ月半分の容量を確保し、ゴミ捨て頻度の大幅な削減に成功しました。また、掃除機では初となるナノイーX*を搭載し、紙パック内のゴミの除菌、脱臭を行います。ダストボックスの分離により、掃除中の手元にかかる重量は「ペットボトル500mL」程度まで軽減。2021年10月販売後、当社初となる「スティック掃除機シェア1位」を達成。事業に大きな貢献を果たしたメンバーに開発までの道のりを聞きました。
*ナノイーX:高反応成分「OHラジカル」を含んだ水でできた粒子。脱臭、菌、ウイルス、アレルギー物質抑制などに作用するほか、サイズが約5~20nmと小さく、繊維の奥まで入り込めるなどの特徴を持つ。
プロフィール
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水野 陽章
パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 ランドリー・クリーナー事業部
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赤瀬 美樹
パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 ランドリー・クリーナー事業部
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藤原 祐児
パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 ランドリー・クリーナー事業部
目次
PROBLEM ゴミをしっかりキャッチ&スムーズに手放す
「1本のほうきのようにさっと手に取れるスリムな掃除機を作れないか」――デザイン部門からの発想が端緒となり、ダストボックスをスティック掃除機本体から分離し、充電台に移設する構成が考えられました。しかし、その実現化にはスティック本体で集めたゴミを充電台のダストボックスに自動移送するという前例のない技術課題の壁が立ちはだかりました。スティック掃除機でゴミをしっかりキャッチする従来技術に加え、充電台内のダストボックスに送るために「ゴミを手放しやすくする」という新たなミッション。スティック掃除機、充電台のそれぞれから課題解決にあたりました。
吸引風に緩急をつけ、フィルターの目詰まりを除去
スティック掃除機から充電台へ、どのような仕組みでゴミを移送するのですか?

従来の掃除機は吸ったゴミをキャッチしてダストボックスにためるもの。一方、新たに開発したセパレート型スティック掃除機は掃除機でゴミをしっかりキャッチしてからリリースしてクリーンドックに移送しなければならない。スティック本体、充電台にそれぞれ吸引用モーターが搭載されており、いわば一つの家電製品に掃除機を2台搭載するという高難度の技術が求められました。
ゴミの自動移送を実現するため、スティック掃除機でどのような技術解決を?

スティック掃除機内のフィルターに一時的に集められたゴミは、ドックに搭載したモーターの吸引風を利用して移送するのですが、開発初期は十分な機能が果たせませんでした。主な原因の一つは風量不足でした。掃除機内には床面からのゴミが通るノズル経路と、フィルターからドック内のダストボックスを通る二つの経路があり、吸引時に風が分岐していました。
本来風を通すべきダストフィルターの経路に一本化するために、充電台設置時は床用ノズルからの風路を遮断する逆止弁構成を採用。掃除機本体と床面ノズルが直角になる際に接続部を完全密閉させ、自動移送時に床面ノズルからの吸引風を遮断しダストフィルター内に十分な吸引風量を確保しました。また、一定の風量を当て続けてもダストフィルター内に絡まった繊維質のゴミは取り切れず残留したまま。透明な試作機を用いて風量の時間や強さを変えながら、ゴミがどのような動きをするか繰り返し観察したところ、強風の後、モーターをオフにしてから再び強風を送ると絡まったゴミが取れることを発見できました。
最も困難だった技術課題とは?またどのように解決を?

風量の改善により、効率よくゴミを自動移送できるレベルまで到達したものの、耐久試験でダストフィルターの目詰まりという新たな壁にぶち当たりました。目詰まりは実際に毎日1日分相当のゴミ約1gを吸い続ける実験を行ってから分かった事実で、その解決までに約3カ月費やしました。原因を探るために掃除後のフィルターを光に透過させて観察し続けると、目詰まりが側壁に集中していることが分かりました。クリーンドックからの直線の吸引風に対してフィルターの側壁が平行な形をしていると、側壁にこびりついたゴミは除去できない。ならばと側壁をテーパ形状、つまりわずかな角度を付けて台形状にして上から垂直方向の風力を加えることでゴミを効率よく除去できるように設計を変更しました。
掃除機初のナノイーXを搭載。紙パックのゴミを脱臭、除菌
クリーンドックの開発で最も難しかった課題とは?

紙パックの交換時期を知らせるサイン表示の開発です。紙パック内のゴミがいつ満杯になったかは、自動移送時にモーターに流れる電流値を基準に判断します。モーターの前面に紙パックがあることから、吸い込むゴミが増えれば増えるほど吸引風がゴミにより遮られ、抵抗値が上昇して電流値が減少します。その電流値の変化を捉えてサインを自動的に表示する仕組みなのですが、吸い込むゴミの種類などによって掃除機の挙動が常に変化するため、電流値の厳密な制御が困難でした。ゴミの種類や比率に依存せず、いかに正確にサインを表示できるか。ゴミとモーター、複数のパターンを組み合わせて実験し、試行錯誤で最適な電流値を探っていきました。
紙パック内のゴミの除菌、脱臭をするため、掃除機初となるナノイーXを搭載する上で苦労した点は?

ゴミの脱臭や除菌に対する効果を裏付けるデータがなかったため、まずは検証から始めました。しかし、初期試験では効果の差異があまり表れず、紙パック内にナノイーXが十分到達していないことが分かりました。ナノイーXを作り出すボックスから圧力で押し上げるように内部の密閉度を高め、ファンを回して紙パックに一定方向に送り出す機構に改善していきました。さらにナノイーXを搭載したパナソニックビューティー商品を開発しているくらしアプライアンス社ビューティ・パーソナルケア事業部と一緒に性能向上を実現。除菌、脱臭に一定の効果を確認できたことで、商品訴求力の向上を達成しました。
MESSAGE & YELL
水野 陽章
掃除機開発の難しさは、ゴミの種類、割合によって毎回挙動が異なる点です。例えば、吸い込む順番が綿ゴミか細塵かだけでフィルターの目詰まりしやすさが大きく変化します。ユーザーの使用環境もさまざまでシミュレーション技術による厳密な解析が難しく、自分自身の目が一番の頼りになります。今回の開発では透明試作機でゴミの動きをじっくり観察したり、光に透過させてフィルターを確認したりして、風量不足や目詰まりの原因など課題解決の糸口をたぐり寄せることができました。たとえ泥臭くても遠回りでも現物に向き合い続ける姿勢をこれからも大切にしていきたいです。
赤瀬 美樹
入社5年目で初めて一つのパーツ設計を任され、製品開発の過程を学びつつも、いかに自分らしさを商品の中に表現できるか模索しながら開発にあたりました。今回のハンドル設計では私のような小柄で小さな手の女性でも使いやすくという気持ちを形状に反映でき、技術者として自信を得られました。どんな時も「私だったらこういう製品をつくりたい」と常に自分の考えを持ち続ける。それが新たなより良い製品を生み出す、モチベーションとなると信じています。
藤原 祐児
今回開発したセパレート型スティック掃除機は、暮らしに溶け込むスタイリッシュなデザインをテーマにしており、少しでも圧迫感を減らすため本体サイズを限りなくコンパクト化しています。「このサイズでは部品が入らない」。何度デザイン部門に掛け合ったか。チーム一丸で知恵を絞り合い、解決方法を見いだしてきました。販売後トップシェアを獲得でき、改めて実感したのは妥協を許さないモノづくりの大切さです。互いにせめぎ合い、ときにぶつかり合いながらも目指すべきゴールに向かっていく。新たなチャレンジから違った景色を見られた経験は私にとって新鮮でした。
FUTURE
前列左から赤瀬 美樹、水野 陽章、藤原 祐児
後列左から妹尾 裕之、笹尾 雅規、樽谷 隆夫、土屋 武士、藤田 孝一、守屋 浩史
2021年10月に発売以来、セパレート型スティック掃除機は5~6万円価格帯での占有率を約10倍に拡大しました。開発チームは「紙パックなどダストボックス自体を無くし、掃除機から直接ゴミ箱に自動移送できないか、さらには菌でゴミを分解して消失できないか」など独自技術の開発を目指しています。「世にないアイデアは固定観念にとらわれない自由な発想から生まれると信じています」と水野さん。セパレート型スティック掃除機の成功を原動力にして未来へと進み続けます。
関連URL
[商品紹介]
受賞テーマ | 国内初、掃除後のゴミを自動で収集するセパレート型スティック掃除機の開発 |
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担当 | パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 ランドリー・クリーナー事業部 |
*所属・内容等は取材当時(2023年2月)のものです。
掃除中、スティック掃除機で吸ったゴミは小型のダストフィルターに一時的に集められます。掃除後、スティック掃除機を充電台(クリーンドック)に設置すると充電と同時にクリーンドック内部のモーターが稼働し、吸引風によりダストフィルター内のゴミがクリーンドックのダストボックス内へ自動移送されます。クリーンドック側に約1カ月半分のゴミを蓄積できる紙パックのダストボックスを設置したことで、面倒なゴミ捨てやお手入れ時間を大幅に軽減できメンテナンス性と軽量操作の両立を可能にしました。