未来をつくる技術の現場から 濡れないのにひんやり、クールな演出でブレイク!〜グリーンAC Flex〜

社会課題を解決し、世の中に新しい価値を生み出していくために。パナソニックは技術革新だけでなく、これまでにないソリューションやサービスの開発に挑み続けています。今回は、ミストを使って周囲を冷やす冷却機「グリーンAC Flex」の開発チームにインタビューしました。

グリーンAC Flex
製品名 グリーンAC Flex
担当 パナソニック株式会社 アプライアンス社 事業開発センター ミスト事業推進室

「ひんやりするのに、濡れていない」と驚きを持って受け入れられているミスト冷却機「グリーンAC Flex」。そのしくみは、例えるなら「人体への打ち水」。水が気化する際に熱を奪って周囲を冷やす、気化冷却の働きを人の肌で再現したミストです。濡れを感じにくくするために、肌に触れた瞬間に蒸発するほど水の粒を極小にしており、その粒径はわずか6マイクロメートル。東京オリンピック・パラリンピックにおける暑熱対策の切り札として開発を始め、ライフソリューションズ社(以下LS社)やコネクティッドソリューションズ社(以下CNS社)との協業を経て、エンターテインメント分野や除菌事業にまで、その可能性は着実に広がりつつあります。

グリーンAC Flexの内部パーツ

グリーンAC Flexの内部パーツ

目次

  1. ミスト微細化と機器の肥大化、景色を変えたノズル形状の工夫。
  2. 東京五輪の屋外は炎天下、どこでも"おもてなし空間"を。
  3. 消えてなくなっても心に残る。クリエーティブを刺激するミスト。
  4. SDGs時代に手応え、めざすはミストの代名詞。
  5. アジャイルは環境あってこそ。チームを越えた協力のたびに広がる可能性。
  6. 考えるより、感じろ!現場百遍、解は自然と見えてくる。
  7. もがいてつかんだ、世界最小の粒。専門メーカーに負ける気はしない。
  8. 外部の協力を得て実感する、「新規開発の可能性はあちこちにある」。

ミスト微細化と機器の肥大化、景色を変えたノズル形状の工夫。

機械内部

機械内部

2013年、東京五輪開催決定。真夏の開催とあって、仮設スタンドやセキュリティチェックゾーン、または屋外イベントにおける暑熱対策が大きな課題となりました。それらをきっかけに、疑似発汗と気化冷却で暑い人とその周囲をスポット的に冷やす暑さ対策ソリューションを考案したのが、シルキーファインミストの原型です。しかし、従来のミスト冷却機は、粒径の問題で濡れ感が大きく、風の影響があると屋外利用では力を発揮できていませんでした。既製ノズルではこの課題を解決できず、社内の最先端の生産技術・設備開発のプロ集団であるマニュファクチャリングイノベーション本部(以下MI本部)が内製化に挑みました。圧縮された水に圧縮空気をさらにぶつける、2流体ミストノズルによって極微粒化の実現にめどはついたものの、空気を圧縮するための大きなエアーコンプレッサーが必要となり、フレキシブルな設置という目的に反する結果に。実に5年に及ぶノズル開発で特許登録につながる先端形状を生み出し、低圧な小型コンプレッサーを使いながらも世界最小の粒径を達成、「場所を選ばず使える」商品へと大きく前進しました。

東京五輪の屋外は炎天下、どこでも"おもてなし空間"を。

花壇から噴き出すミスト

人々の様子

屋外での設置を想定すると、利用環境にはいくつものハードルがあります。一般的には三相200Vという特別な動力電源が必要でしたが、フレキシブルな設置ができるようにグリーンAC Flexは単相100Vで駆動できるようにしました。コンプレッサーや制御ユニットなどが、それぞれ大きな筐体として独立している製品がほとんどのなか、グリーンAC Flexはコンパクトなユニットに全てを収めた機器一体型の仕様にこだわりました。水源の確保が難しい環境にも配慮して、給水タンクからの運用ができるのもアドバンテージのひとつ。設置場所を選ばない設計コンセプトが、特にヒートアイランド現象が進む都市部の自治体から関心が集まり、横浜市や神戸市で実証実験を行いました。最初に採用されたのは、社内カンパニーの1つであるLS社からの紹介でつながった東京都葛飾区です。区や地域団体と協定を結び、太陽光発電で水やりを行う立体花壇「フラワーメリーゴーランド」に技術提供を行い、テレビに取り上げられて話題になると、知名度も採用数も大きく上がりました。

消えてなくなっても心に残る。クリエーティブを刺激するミスト。

ミストに光が照射される風景

ミストが噴き出すベンチ

開発チームに新しい可能性を示唆したのが、ミラノサローネ 2018に出展した「Air Inventions」のベストテクノロジー賞受賞です。「感覚的な体験をもたらす壮大な交響曲のようなインスタレーション」と評されました。さらに空間価値創造の活動で社内の認知が進んだ結果、エンターテインメント分野におけるミストを利用した空間提案が加速していきました。受注第一弾は、円谷プロの体感エンターテインメントです。特撮世界に没入させるための仕掛けとして、レーザーとミストを組み合わせた演出に、「ミストが1番印象に残った」という声も出るほどの好評を博し、イベント成功に大きく貢献しました。その後、チームラボやシンガポール国立公園といったクライアントとグローバルに展開、エンターテインメント分野や暑熱対策で活躍の場を広げています。また、新しい展開として検討しているのが除菌ソリューションです。独自開発のノズルは腐食に強い樹脂製で、各種除菌液を噴霧できる耐薬性も備えていることから、除菌事業にも期待が集まっています。

SDGs時代に手応え、めざすはミストの代名詞。

尾形 雄司 [事業代表]

機械を手に取る尾形 雄司さん

「なぜミスト?」とよく聞かれます。ヒートアイランド現象が進むなか、大規模緑化は多大なコストが課題。エアコンのヒートポンプ式は「機器の排熱>冷却能力」で、かえって周囲に熱が増えるため、屋外利用には向きません。猛暑では送風ファンを使っても「ぬるい風」程度にしか感じられないなか、グリーンAC Flexは人の体表面から直接熱を奪うため、確実に冷えを実感できます。SDGsという言葉が着実に定着するなか、ヒートアイランド現象を助長せず、環境に優しいミストはますます注目を集めるはず。体験価値の高さはもちろん、設置の柔軟性、電源や水源面の使用ハードルの低さには、明らかにアドバンテージがあります。空間演出に加え、小型モデル開発でさらに除菌事業含めた選択肢を増やして、よりグローバルで身近な暮らしになくてはならない存在にするのが次の目標です。

アジャイルは環境あってこそ。チームを越えた協力のたびに広がる可能性。

赤澤 国生 [営業企画]

携帯電話で話す赤澤 国生さん

開発のスピード感は驚くばかりで、フラワーメリーゴーランドの検討を始めたのは、協定を結ぶわずか2カ月前でした。短期間で世に出せたのは、基礎研究の積み重ねとともに、今までは「誰にどう伝えたらいいんだろう」と迷うようなお客さまの声でも、開発陣にそのままの熱量で伝えられた環境が整っていることが大きな要因です。また、私たちは新規事業の部署で、面を広げる営業のノウハウがなく、LS社からの協業の問い合わせはまさに渡りに船でした。イベントなどで関わりが増えるにつれてLS社のミストの取り扱いは目に見えて増加。その過程で「こんな使い方できない?」といった声に多く触れて、それが製品にどんどん還元される好循環が生まれました。グリーンAC Flexには、おそらくまだまだ多くの伸びしろがあります。今後の展開を考えると、今から心が躍ります。

考えるより、感じろ!現場百遍、解は自然と見えてくる。

木村 航太 [開発(機構系)]

機械に触れる木村 航太さん

開発はトライアンドエラーの連続で、心臓部分とも言えるエアーコンプレッサーの見直しを余儀なくされた時は投げ出したくなりました(笑)。それでも生の声を多く取り込んで製品を高められたのは、垣根のない開発体制が大きいかもしれません。このチームには企画、開発、営業といった役割の間に垣根がありません。尾形さんや赤澤さんからしばしば「現場で一緒に見てくれ」と言われて向かうと、リアルな使われ方や望まれていることにハッとすることが多々ありました。以前は「どれだけ商品を突き詰められるか」で開発に向き合っていた私も、「ユーザーの声を聞きたい」という姿勢に180度変わりました。参加必須の会議を絞ってもらえたおかげで、営業主体の定例会に顔を出せるようになるなど、開発を後押ししてくれる組織にも感謝したいです。

もがいてつかんだ、世界最小の粒。専門メーカーに負ける気はしない。

マニュファクチャリングイノベーション本部 田端 大助 [開発(ノズル)]

機械に触れる田端 大助さん

世界に100社以上ある専門メーカーのノズルはどれも目的を果たせず内製化を試みましたが、微粒化・静音化・量産化など、いくつものハードルが待ち受けていました。家族でふらりと訪れた博物館の展示に微粒化のヒントをもらったり、加工ミスした1本のノズルから特許につながる気づきを得たりと、袋小路にあった状況が、思わぬきっかけから度々突破できたのは印象的でした。また、金属はさびるため、量産には樹脂成形が必須でしたが、耐久性を持たせるには加工の難しいハイスペックな樹脂が不可欠。何度無理なお願いをしても、高い技術力で応えてくれた社内カンパニーの1つであるコネクティッドソリューションズ社の岡山工場の皆さんには感謝しかありません。かつての上司で、今年定年退職される磯見さんに「携われて楽しい」と言ってもらえ、少しは恩返しできたかなと胸をなで下ろしています。

外部の協力を得て実感する、「新規開発の可能性はあちこちにある」。

安井 健治 [開発(電気系)]

作業する安井 健治さん

量産品とは異なり、新規開発はどれだけ数量が出るか分からず、専用部品をつくるとコストが合いません。汎用品をどう落とし込むかを、知見の広い外部メーカーにODMとして協力を仰ぎました。また、法律も大きなハードルとして立ちはだかります。ミスト冷却機は既存のジャンルに当てはまらない商品で規格が存在せず、JETやJQAなどの業界団体の方に連絡を取ったところ、皆さん快く協力してくださり、新規開発を進める勘所をつかむきっかけになりました。実際に施工する現場に足を運ぶと、良かれと思って引いた設計が実は使いにくいなんてこともしばしばです。設置や撤去を行うのは真夏の炎天下なので、負担が掛かりづらい体勢で作業できるように見直すなど、学びの多い開発でした。

*所属・内容等は取材当時のものです。

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