想像以上の車載製品をつくって、
世の中を感動させたい。
設計開発 吉田 陵平
将来は、クルマに関わるモノづくりをする。それは多くの人がクルマづくりに携わる町で育った吉田陵平にとって、当たり前とも言える夢だった。大学の学部もその思いのままに、電気電子工学部を選んだ。
大学2年生の時だった。昔、お世話になった人に会いたいと言う祖母の運転係として、彼は福島まで行くことになった。そしてそこで、忘れられない光景を見た。「震災の影響で、その人がつくった農作物が全然売れなくなったそうで。途方に暮れた顔で、どうしたらいいか分からないって話しているのを見ていたら、何とかできないのかって堪らなくなってしまって」。その思いは、福島から帰った後も消えることはなかった。そして「人の役に立ちたい」という、彼のなかのもうひとつの軸へとなっていった。
就職活動をする時も、それは変わらなかった。電気自動車や自動運転など、これからのクルマのあり方を提案するようなモノづくりがしたいと思った。しかし、会社選びでは迷いがあった。今までにないチャレンジをするのに、カーメーカーばかりに絞って活動をしていいんだろうか。そんな時に、パナソニックで働く大学のOBと出会った。話を聞くうちに、電機メーカーが車載にも取り組んでいることを知った。そうか、こういう会社なら、新たな領域から車載事業を牽引していけるかもしれない。それまで選択肢になかったパナソニックが、急に本命となった。
入社した彼は、カーナビや車内エンターテインメントなどの製品を取り扱う、インフォテインメントシステムズ事業部に配属された。そして、欧州向けのディスプレイユニットのハード設計の担当となった。「ここで取り扱っているのは、クルマという空間での新しい過ごし方を提案する製品です。僕も研修の時にはじめて見たのですが、画質や音の美しさが本当にすごかったんです。ここなら人の役に立てることができるって、すごく嬉しかったですね」。得意とは言えない英語での現地とのやりとりに悪戦苦闘しながら2年。その後、トラブルシューティングのサポートを1年担当し、現在の部署へ異動となった。
「今は、国内向けの車載用ディスプレイオーディオユニットの開発をしています。これはディスプレイとその後ろの部分、つまり映像や音楽などといったカーナビのナビ機能以外の機能が入ったもので、その電気回路設計を担当しています。これらの機能を持たせるためには専用のICチップを使うのですが、機能が増えるたびにICがどんどん増えていて。取り付ける面積がどんどん小さくなっているなか、このIC同士の通信が干渉したり、熱を持ったりしないよう最適な配置を考えるのが仕事です。まるで高度なパズルをやっているような感覚ですね」。カメラや映像、音楽、スマートフォンとの連携など、異なる領域の技術の集合体を、ひとつのシステムとしていかに快適に動作させられるか。それが腕の見せ所だ。
急速な進化を続ける自動車技術。それには車載製品の進化が不可欠だ。必死につくり続け、走り抜けるように過ぎていった日々を、こんな風に振り返る。「実際に働きはじめて、仕事ってこんなに大変なんだって思うことも正直ありました。特に車載は厳しい基準が求められるので、それをクリアするために苦労も多いです。でも、そうやって生まれた製品が誰かの役に立って、喜ばすことができている。子どもの頃から思っていたことができているなと思います」。そして今は、その先の夢を見ている。「世の中に感動を与えられるようなものを、つくりたいんです。ただ便利だったり、役に立つだけでなく、使っている人の想像を超えるものを。電気自動車とか、全方位車載カメラとか、クルマが好きな僕はその技術の進化に触れるたびにいつも心が躍りました。あんな気持ちになれるものを、世界中の人へ届けられたらって思っています」。